第2話 元幼馴染との再会


 勇者来訪の知らせが届き、謁見の間に向かう。


 頭を垂れて僕を待っていた勇者を流し見し、玉座へと腰掛ける。

 傍らにはアリアを待機させて置いた。

 このような場にメイドは不釣り合いだがアリアは僕の護衛も兼ねているからだ。

 何よりここはグラシャス家の属州で今は将来の経験を積むために僕が管理を任されている土地なのだこの程度のことに口を挟む者はいない。



 件の勇者とその一行を見下ろす。


 どうやら勇者は女性だったらしくこの世界では珍しい長い黒髪の女だった。

 連れの2人は男で一人は戦士風、もうひとりは魔道士風の装いをしていた。


「構わぬ。おもてを上げよ」


 僕が拝見の許可を出し勇者が顔を上げる。

 その瞬間僕は絶句した……込み上げてくる不快感を必死に抑えると睨みつけながら小さく呟いた。


『どうして、お前がここに居る』

「えっ、タッくん?」


 顔を上げた女勇者が目のあった僕を見て呆然としていた。

 そう、忘れもしない。あの頃よりは大人になっていたがこの女は前世の僕を最初に裏切った幼馴染だった女だ。


「無礼であろう、この御方は次期公爵、現ハルンホルン州領主、メビウス・グラシャス様なるぞ、名前を間違えるなど不敬も甚だしい!」


 隣に控えていたアリアが戦場時を思わせる威圧感のある声で女勇者を咎める。


「失礼しました領主様。余りに知り合いに似ていたもので、私は勇者としてこの世界に参りましたセリナと申します。お見お知り下さい」


 当然だろう、転生したが僕の顔立ちは髪の色と瞳の色が違うだけで前世と同じだから。

 そして目の前の女勇者も僕の知る幼馴染だった相澤芹奈アイザワセリナに間違いなさそうだった。


「良い許そう。それでいかようでここに赴いた理由を述べよ」


「あっ、はい。実は私達世界を回って魔物の被害から人々を守っておりまして、出来れば領主様にもスポンサーと言うか支援をして頂ければと」


 そう言って芹奈は恭しく頭を下げた。


「ふむ、どうやら我が領内でも活躍された様子だな勇者殿」


「えへへ、はい魔獣が出て困っている村があったので私達で退治しておきました」


 芹奈はこう言っているがアリアからの報告書によれば村はすでに魔獣退治の申請を提出しており既に討伐隊も編成されていた。

 村長もその旨を伝えて勇者達の手による討伐を断ったそうだが聞く耳を持たず強引に魔獣退治を行ったあげく遠回しに謝礼を要求してきたそうだ。

 それだけならまだ目を瞑らなくは無いが勇者達の取った対応が余りにお粗末だった為、逆に村へ被害が出てしまっていた。


 芹那が相手にしていたブラッディ・ベアという魔物は親子で行動する習性を持っているのだが、芹奈達はその子供だけを討伐し親を放置したのだ。


 結果、怒った親が村を襲う事態に陥ってしまう。

 幸い編成されていた討伐隊が駆け付けたことで被害は最小限に抑えられたが最初から魔獣の特性を認知していた討伐隊が事に当たれば被害は出なかったといえる。


 本当にこの女は考えなしで周りに流されるだけだ、大方後ろの二人に言われて動いたのだろう。

 あの時だってそうだ…………。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕と芹奈は幼稚園からの付き合いで家も近かったため、いつも一緒に居るようになり自然と仲も深まった。


 今では汚点だが前世での初恋は芹奈だった。


 そんな僕達の関係が変わったのは中学2年になった頃、クラスの中心で人気者だった男の告白を断ったことで周りの女子から始まり、次第にクラス全員から芹奈がイジメられるようになった。

 僕は当然芹奈を庇ったが、その結果はよくあるパターンで標的が僕に変わった。

 クラス全員からイジメられるのは本当に辛かったが芹那が救われるならと堪えた。

 芹奈も学校から戻れば泣いて謝り僕を励ましてくれた。

 そうして必死に堪えているたが、いつからか芹奈もイジメる側に回るようになっていた。

 最初は無理矢理、強制されと言って何度も泣いて謝られた。

 だから僕はその言葉を信じて堪えていた芹奈の本意ではないからと……。


 でも、僕は見てしまったイジメの原因となった告白を一度断った男、今や僕をイジメる中心にいる男と芹那がキスをしている姿を、嬉しそうに腕を組む姿を……僕に見られたと分かっても悪びれないその姿を……僕は生まれて初めて激昂すると相手の男に殴りかかった。

 男は簡単に倒れると僕を睨んだ、そして芹奈はその男を庇うように立ちはだかると言った。


 その時に言われた芹奈の言葉は今でも忘れていない。


『私の事を守ってくれなかった癖に……いきなり暴力を振るうなんて最低!』


 何を言っているのか理解出来なかった。


 確かに暴力に訴えた僕は最低だが、散々僕をイジメてきたこいつと自分はどうなのかと……。


 自分の痛みには敏感な癖に他人の痛みには鈍感なヤツは被害者ぶるのも上手かった、自分達のしてきたことをすっかり棚に上げると僕は見境なく人を殴る暴力魔に仕立て上げられていた。

 それにより僅かに繋がっていた友人も離れ本当に一人ぼっちの中学生活を送ることになった。

 幸いだったのは芹奈とも完全に縁を断てた事だろう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 まさか断ち切った筈の縁がこの異世界で繋がるとは思っていなかった。

 僕にとって今の芹奈には憎しみ以外の感情は無い、前世の出来事だからと流せるほど聖人でもないし、忘れて無関心になるほど達観もしていない。


「予定どおり、ここは私にお任せ下さい。ご希望に添える形であの女を処分いたします」


 アリアはそっと耳打ちしてくる。

 僕の前世の出来事を知っているアリアは僕でも見たことない冷たい眼差しで芹奈を見ていた。


 アリアの進言通り、芹奈の要望を叶える条件をアリアと試合して勝利することとした。


 勇者として自信があるのか芹奈は『そんなことでよろしいのですか?』と尋ねてきた。


 僕はそこで初めて前世での『タクミ』としての顔を芹奈に見せた。


「ああ、元幼馴染のよしみだ精々頑張ってくれセリナ」


「あっ、やっぱりタッくんだったんだ!……本当に、本当なんだ! 嬉しいよこんな所で会えるなんて…………色々と伝えないといけないことがあるの聞いてくれるかな?」


 僕の言葉を見事に勘違いし、芹奈は嬉しそうな表情を見せる。


「……ああ、に試合が終わったらな」



 

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