裏切り者には制裁を 〜僕を裏切った者は誰であろうと許さない……えっ何か僕以上に周りが怒っているようで僕には今更止められません〜

コアラvsラッコ

第1話 転生先の平和


 上野匠海カミノタクミの人生は幼馴染の裏切りに始まり、家族に裏切られ、恋人にも裏切られ、最後に信じた妻にも裏切られると絶望の末に短い人生を終えた。


 しかし、なんの因果か魂の救済システムなるもので別世界に転生し直すこととなり、禍福反転効果とカルマ反映効果によりチート能力ガン積みのままメビウス・グラシャスとして生を受けるに至った。



 彼の転生先であるグラシャス家は魔道の名門でエンハイム魔法王国で公爵の地位にあり王家の次に力のある貴族である。


 そこの嫡子として生まれた上、与えられたチート能力による魔法の才能まで持っていれば将来は約束されたも同然である。 


 しかも、前世とは大違いで、良く懐いてくている可愛らしい妹や、良く尽くしてくれる幼馴染のメイドまで居た。

 この世界に来て彼は本当の幸福というものを初めて知った。


 しかし、夢で度々見る前世の悪夢が苦しかった思いを呼び起こし、未だに暗い影を落とす。

 今もそうだ前世の夢を見た彼は激しく気分が沈んでしまっていた。






「メヴィ様、また例の夢を見ていらっしゃったのですか?」


 僕を起こしに来た専属メイドで幼馴染でもあるアリアスフォード・ハイアットが声を掛ける。

 金色の長い髪をシニョンに纏め、少し垂れ目がちな瞳は穏和さを醸し出す。

 この世界に生まれ変わって初めて好きになった娘でもある。


「ああ、大丈夫だアリア」


「そうですか、苦しければまた私にぶつけて下さい私はそのためにいるのですから」


 そう言って僕をその豊満な胸で抱きしめてくれる。

 甘い香りが広がり、先程までの嫌な気持ちが少しづつ晴れていく。


「ありがとう、アリア」


「いえ、私が好きでやっていることですから」


 そう言うアリアの家はグラシャス家の臣下で子爵の位を持つ貴族だ。

 本来は僕のメイドを務める必要性などないのだが彼女は自ら進んで僕の身の回りの世話をしてくれている。

 最初は家同士の繋がりから義務のような側付きだったが学園で共に学び、一緒の時間を過ごす内にお互いに惹かれ合い恋人関係になった。

 家柄の問題で正室には出来ないが側室でも側にいることを望んでくれたアリアに応え内々的に婚姻の密約を交わしている。


「アリアが側に居てくれて助かった」


 僕は埋めた胸から顔をあげると見つめるアリアと口づけを交わす。


「ふふっ、メヴィ様、今日の閨には是非、私をお呼びくださいね」


 潤んだ瞳で囁かれた。

 こう言われれば僕は頷くより他は無く、逢瀬を確約する意味でもう一度キスを交わした。


 アリアはそのまま僕の着替えを手伝うと今日のスケジュールを告げる。


「今日の予定は謁見願いが1件きております。希望者は聖剣の勇者との事です」


「ふむ、勇者が何のようだ? 領内での魔物対策は万全かと思うが」


「勿論でございます。我々星十字サザンクロスを含め十二師団ゾディアックも問題なく機能しております」


 星十字は僕の近衛隊ともいえる存在で一騎当千の少数精鋭チーム。

 十二師団は虐げられていた亜人や魔力を持たない者たちを中心に僕が編成した私設兵団のことだ。


「それならば、他に考えられる事としたら……」


「恐らく、援助の無心ではないでしょうか、調べましたら派手に活動されているようなので」


 何となくだがアリアから勇者に対する敵意を感じる。

 僕が知る限り勇者との接点など無かったと思うがハイアット家と因縁でもあるのだろうか?

 あまり勇者には興味なかったがアリアの様子が気になったので直接会うことにした。


「会おう、時間を調整してくれ」


「宜しいのですか? 金だけ握らせて追い払うことも出来ますが」


「いや、珍しくアリアが意識しているような相手だ少し興味が湧いた」


「…………失礼しました。ハイアット家にとって勇者を称する存在とは因縁がありまして」


 予想通り家と関わり合いがあったらしい、ただ個人というよりは勇者という者がハイアット家には好ましくない存在なのだろう。

 理由が分かればとたん興味も失われる。


「そうか、アリアが不快になる位なら態々合う必要も無さそうだな」


「僭越ながら宜しいでしょうか?」


「良いぞ」


「出来るなら会って我が家の遺恨、この機会に晴らすチャンスを頂ければと存じます」


「どうしたい?」


「支援の条件を私に勝つこととして下さい」


 そう言って不敵に微笑むアリア。


「分かった。ハイアット家の問題なら我が家の問題でもあるからなアリアの望むとおりにしよう」


 このままいけばアリアは僕の側室になるだろから嫁の問題は僕の問題でもある。


「ありがとうございますメヴィ様。さすが私のお慕いしている御方」


 朝の身繕いも終わった僕にしなだれるようにアリアが体を寄せて来る。

 僕は強く抱き締め返すと3度目のキスを唇に落とした。

 

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