第10話 到着
惑星到着の時が近づくと、二人はメインコンソール室に集った。二人の眼前のモニターにこれから着陸しようとする惑星の姿が大きく映し出され、その存在を主張している。すでに宇宙服を着込んだ二人は、その惑星の映像に釘付けになっていた。
「間もなく着陸体制へと移ります。乗員の皆様は振動に備え、身体を固定してください」
機会音声がそう告げ、二人はそれに従う。宇宙服の表面に設けられたリングにカラビナを噛ませ身体ごと船体に固定する。互いにそれぞれの固定を確かめると、二人は席に着く。
それから少しして船内に働いていた人工重力が消えると、二人の身体はふわりと浮き上がるが、カラビナのおかげでその場に留まった。
そして、惑星に向けた船の降下が始まる。惑星の重力圏外を保っていた宇宙船が一度重力圏に踏み入れると、船は惑星吸い寄せられるようにして彼我の距離を詰めていく。船内にいるルーク達はそれを全身で感じ取った。
「……ね、大丈夫、だよね?」
通信越しにエリが尋ねる。その声音は、未知の惑星に降り立つという恐怖と着陸に失敗してしまうのではないかという不安に震えていた。ルークはそれに、大丈夫だ……と返すと、
「うん……そうだね」
と彼女も返した。
それが根拠のない慰めの言葉であることには当然二人共気づいていたが、それ以上何かを口にすることはなかった。
船体の揺れが激しくなる。空気との摩擦によるものだった。と、同時に船の降下速度を低減してくれる。船内の彼らにできることは、ただ無事にいくことを祈るだけだった。
そして、ルーク達を乗せた宇宙船は激しく揺れながらも無事惑星に降り立つことに成功した。ルークは閉ざしていた瞼をゆっくりと開き、身体の固定を解除する。
立ち上がり横を見ると、エリも同じようにしていた。
コンソールに寄り、船の状態をチェックする。幸いにも船に大きな損傷は見当たらなかった。次いで、船外の様子をカメラで見る。しかし、カメラに移るのは緑ばかりでろくな情報を得ることはできなかった。
「……外、出てみる?」
無事に着陸が出来たことでエリの中にあった不安は、外への興味に変わったようだった。外がどうなっているのか早く見て見たいといった様子。それはルークとて同じだった。
「うん……でも、そのまえに――」
ルークはディスプレイに目を走らせ大気の構成を確認する。そこには「人体に害なし。船外活動可能」と表示されていた。
「これって、外に出てもいいってことだよね?」
「そうだけど、もう少しまわりの様子を――」
ルークがそう言い切るより早くエリは部屋を出て行ってしまった。
「ま、まってエリ――」
慌ててルークはその後を追った。
エリは地表に下ろしたタラップの傍に、宇宙服を脱いだ姿で立っていた。
「ん……風が心地良い……」
風が彼女の髪をさらいなびかせている。
エリはまだタラップの上でまごついているルークへ向かい、早く降りてきなよ、と急かした。
「ほら、宇宙服なんて脱いで。そんなの必要ないよ。それに……空気がおいしい!」
彼女はそう言って、大きく息を吸って吐いてみせた。どうしようかと悩んだ末、ルークも宇宙服を脱いでタラップを降りると、少し距離をとってエリの横に並んだ。横目に盗み見たエリの表情は開放感に満ち満ちていた。
「それにしても……」
エリから視線を放すとルークは周囲をぐるりと見渡す。
「映像で見たとおり、本当に植物だらけだ……」
彼らの船が降り立った辺り一面、背の高い幹の細い樹々が生え茂っていた。上を見上げれば細々と枝が緑の天蓋を形成し、ルーク達が着陸した箇所にはぽっかりと穴があいたおかげでそこから空の様子を窺うことが出来る。一言で形容するのなら、そこは熱帯雨林のようだった。
しかし、地球上のそれとは異なる不気味さがこの森にはあった。
「……いやに静かだな」
「……そうだね。全然生き物の気配がしないんだね」
二人は周りを観察するが、生き物の姿はおろか声する聞こえてこない。ただひたすらに風に揺れた葉擦れが聞こえるだけだった。
「船の音に驚いて逃げたのかな?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない……」
「そもそも、生き物が生息してるのかって話だよね。上から見たときは見つからなかったし。でも、これだけ植物が生えてるなら虫の一匹くらいはいてもいいのにね」
エリの言ったとおり小動物の一匹くらいはいても良さそうなものだが、それすらも見当たらない。彼らの知る熱帯雨林との差が言い知れぬ不安を煽っていた。
「――ともかく」
ルークはその不安を声を出すことで振り払う。
「一度付近を探索してみよう。そうすれば生き物がいるかもしれないし、水源が見つかるかもしれない。それに……ひょっとしたら先に到着してる人がいるかもしれない」
「……そうだね。それがいいよ、そうしよ!」
それから二人は周囲の探索を開始した。
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