以下、未修正のため色々と荒さがあると思います。すみません

第6話 計画

「――いいかげんに、はなしやがれっ!」

 途中でガイは船長の独房へ向かい、ルークたち三人によって強制的に船長の部屋から引っぱり出されるジョージは、それでもなお抵抗を続けていた。やがて、手近な個室に連れ込み三人が気を抜いた瞬間にジョージはルークを殴りつける。そうして、拘束の手が緩んだ隙を突いて他の二人の手も振り払い自由を取り戻した。

「おまえら、なに考えてんだ!」

 ジョージは三人に向かって唾を飛ばす。

「おまえらまであいつらの味方をすんのか!?」

 ルークはジョージに殴られた頬を押さえながら、警戒して身を構えつつそれに答えた。

「……そんなつもりじゃない」

「じゃあどういうつもりなんだよ」

「ミレイさんも言ってただろ、一時の感情に任せて行動するべきじゃない。まずは冷静になるべきだ」

「エリが襲われたんだぞ! それなのに何もするなってか!?」

「……そうだ。ジョージ、お前に……俺達にできることは、今はなにもない」

「て、てめぇはいつもそうやってすかした態度しやがって……そこが気にいらねえんだよぉ!!」

 そう言うとジョージはルークに向かって殴りかかった。が、ルークもやられたままではいなかった。

 怒りに身を任せ、頭部への大振りな打撃を狙うジョージに対し、ルークは腰を落としてしゃがむことで回避する。次いで、立ち上がる勢いを乗せてジョージの顎を下から掌底で打ち据えた。

 思わぬ反撃にジョージはフラフラと後ろへよろめき、揺らぐ視界の中おぼろげながらも追撃に備えようとする。が、すでに拘束を振りほどこうとして体力を失っていたジョージはがっくりと膝を折った。

「く、くそ……」

「ジョージ、少し落ち着け」

「そ、そうだよ。僕もいったいなにがおこったのかまだよく分からないけど、少し落ち着こうよ」

「俺もそれがいいと思う」

「……」

 ルークの言葉に、それまで様子を窺っていたドニとユランが同意した。ジョージはまだ納得した表情を見せることはなかったが、その場からすぐに立ち上がることも出来ずに静かに押し黙った。

 それから数分が経ち、ある程度の体力を取り戻したジョージはゆっくりと立ち上がる。また暴れ出しはしないかと三人は身構えたが、幸いジョージがそうすることはなかった。

「ジョージ、少しは頭が冷えたか?」

「ああ……」

 ルークの問いに、静かな声でジョージが答える。

「ルーク、お前の言うとおりだ。今の俺じゃあ何もできない。その通りだ。ただ怒りに任せて暴れるだけじゃダメだって、思い知らされた……」

「ジョージ……」

「けどな、やっぱり俺は船長のことを許せねえ。この気持ちばっかりは、冷静だとかそういう問題じゃない」

 そう語るジョージの拳は固く結ばれていた。口調そのものは静かだったが、その背後には硬い意思が感じられた。彼は一度落ち着いて考える事で、より一層船長に対する憎しみを増長させていた。

「……決めた。俺は、船長のこの船から追放する」

「ジョージ!?」

 ドニとユランが驚きの声を上げる。

「追放って、何言ってるんだよ!? そんなことできるわけないよ!」

「そうだ、なに馬鹿なこと言ってるんだ」

「なら、お前らはいいのか、船長をこの船に置いているままで。あいつはエリを襲った……どんな理由があろうと俺はそれを許すことはできない」

「それは……ジョージ、おまえがエリのことを好きだからか?」

 ルークのその問に、ジョージは首を縦に振った。

「そうだ……けど、それが全てじゃない。あいつがこの船に乗ってるってだけで、エリだけじゃない他の女子たちもその存在に怯えることになる。それに、同じ男としてあんなことをしでかした船長を厳しく罰しないと、俺達まで同じ目で見られるかもしれない。いや、そうなるだろう」

 ドニとユランはそれを聞いて更に驚きの声を上げた。彼らはそこまで想像していなかったらしい。一方、ルークは険しい表情でジョージの言葉を聞いていた。

「規則とかなんだとか、そんなことを言ってる場合じゃないんだよ。これは俺達全員の問題なんだ。だから、船長のことも俺達でなんとかしないといけない。そうだろ、ドニ、ユラン、ルーク!」

「けど……そんなこといわれても船長を追放するなんて、僕は……」

「嫌なら黙って見てればいい。俺はひとりでもやってみせる。けどな、あとで『あいつは船長の追放に反対した』って言われても文句は言えないぜ。それが何を意味するかは、すこし考えればわかるだろ?」

「そんな……」

 そう言われてドニは困惑の表情を見せる。自らの手で船長を追放することに躊躇いを感じているようだった。

「……わかった。俺も強力する」

 一方、ユランは早々にジョージへの賛同を表明した。

「俺も船長がやったことはゆるせない。なにより、そのせいで俺までそんな人間だって思われるのはそれ以上に許せない。だから俺はジョージに協力するぜ」

 ドニはそれを聞き、より一層戸惑う。

「ユランまで……そんな、怖くないの? 自分たちで、その……他人のことをどうこうするなんて。僕はとてもじゃないけどそんなこと……」

「俺だって何も思わないわけじゃない。けど、俺達がやらないと。大人達は信用できない。あいつらは……規則だなんだって言って、俺達子供を押さえつけようとしてるんだ。それにきっと……エリの方がもっと怖かったにちがいない。だからこそ、男として俺達がやるんだ」

 そう答えたジョージの言葉に、ドニは俯いて考え込んでしまった。そして、再び顔を上げると、

「……わかった。僕も男だ。だから、ジョージ達に強力する」

 そう言った。

 そして、意思表明をしていないのはルークだけになった。三人の視線がルークに注がれる。

「俺は……」

 ルークは十分に考えた末で自分の考えを口にした。

「ジョージ達に賛同はできない。ジョージの言うことは理解出来るが、それでも俺は規則にし従うべきだと思う。船長を庇うつもりはない。こういうときの為に規則があるから、俺はそれに従う方が正しいと思う」

「……そうか、わかった。俺もお前に強制させるつもりはない」

 ジョージはルークの答えを聞いても決して怒りはしなかった。

「ただ、邪魔をするっていうなら話は別だ。そのときはお前のことを敵とみなす」

「ああ」

 ルークはその言葉に頷いた。



「――で、どうやって船長を追放するんだ?」

 ひとまず全員の立場が確立すると、ユアンがジョージに尋ねた。

「とてもじゃないけど、三人でかかっても大人ひとりをどうにかできるとは思えない。それにきっとシンディとガイが止めようとしてくるだろ」

「僕、腕力には自信がないよ……」

 ドニも心配げな声を出す。と、ジョージがなんのことはないと答えた。

「緊急時用に銃が積まれてるだろ。それを使う」

「ええ!?」

「おいジョージ。それは、さすがに……」

 一度は賛同の姿勢を示したはずのドニとユアンもそれを聞いて思わず尻込んだ。

「なにビビッてんだよ。俺達じゃあ大人たちに腕力で勝てないって、今お前らが言ったことだろ」

「そ、それはそうだけど……銃を使うだなんて……」

「銃を使うって言っても、手に持って見せるだけだよ。実際に撃つつもりはない。」

「な、なんだ、よかった……」

「銃を持ち出すことに関して抵抗はないのか……」

 ドニがホッとしたのを見ても、ユアンは変わらず心配げな顔をしていた。

「わかってるのか? 無許可で銃を持ち出せば警報がなってすぐに気づかれるんだぞ。それに銃を見せつけて脅しても、奪われたら終わりだ。それこそ、今度は俺達が独房に入れられかねない」

「そ、そんな……」

 再びドニの顔は不安に変わった。

「ど、どうするのジョージ? 僕、独房なんか嫌だよ」

「大丈夫。俺達三人に対して、注意するべき相手はガイとシンディの二人だけだぞ。どうとでもなるさ。警報も逆に都合がいい。音を聞きつけてバラバラ来たなら、それをひとりずつ取り押さえればいいだけだ。こっちが先に銃さえ握っちまえば、あとはどうとでもなる」

「……そうか」

 ジョージにもしっかりと考えがあったことを確認すると、ユアンもやがて納得したようだった。ドニも、ユアンのその様子を見てひとまずは落ち着いたようだった。

「ただ、ひとつ心配ごとがあるとすれば――」

 今度こそ三人は意思を固めたかと思うと、ジョージはおもむろにルークの方へと向き直り、

「こいつが、今の話を大人たちに告げ口をするかもってことだな。今、この話を知ってるのはこの場にいる四人だけだ。俺達三人はいいとして、ルークは別だ。こいつは俺達に協力する気はないと言った。だから今すぐ通信でもして告げ口されたら、俺達の計画は実行する前から失敗する。さっきも言ったが、もし邪魔をするなら……」

「そんなつもりはないさ」

 ルークは答えた。

「協力はしないが、邪魔もしない」

「どうだかな」

 ルークの返事を聞いて、ジョージはあざ笑う。

「どっちつかずってのが一番信用できねえ。あとになって、上手くいった方に擦り寄って自分だけ上手く立ち回ろうって算段だろう。けどな、そう上手くいくと思うなよ?」

「……そんなつもりはない。ただ俺は少し様子を見た方が上手くいく場合もあると言いたいだけだ。感情に従って事を進めるのは危険な時がある」

「……ふん。まあお前が何を考えていようが、俺のやることは決まってる」

 ジョージはそう言うとルークの腕を掴む。

「悪いが、俺はお前のことが信用できない。事が済むまでお前には外部との接触を断ってもらう。抵抗してもいいが、その時は痛い目に遭うのを覚悟しろ。さっきはやられたが、こんどはそうはいかない」

「わかったよ」

 ルークは大人しく従った。

「ルーク、ごめんね……」

「いいさ」

 ドニが申し訳なさそうに、ルークの通信端末を回収する。それから部屋にあったタオルでルークの手足をイスに縛り付け身体の自由を奪った。これで、ルークは自力では部屋を出ることも、誰かに通信を送る事もできなくなった。

「無事に船長たちを追い出したら戻ってくる。それまではここで大人しくしてろよ」

 そう言い残すと、ジョージたち三人は部屋を出て行った。

 ひとり部屋に残されたルークは試しに手足の拘束を解こうともがいてみるが、よほど固く結ばれているのか自力で解ける気がしなかった。ルークは無駄な抵抗は諦め、大人しく誰かが部屋を開けて入ってくるのを待つことにした。

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