第3話 大人会議
「――ねえ、放っておいて大丈夫なのかしら?」
子供たちがいなくなり大人だけが残された食堂で、唯一の成人女性であるミレイはインスタントコーヒーを啜りながら同席する三人に向かっておもむろに尋ねた。
「なんのことだい?」
几帳面にゼリーをフォークで小さく切り分けて口に運んでいたシンディが応えた。
「何って……あの子たちのこと。なんだか色々盛り上がってたみたいだけど……あまりいい傾向とは言えないんじゃない……?」
「どうしてだ? 仲がよさそうでいいだろう。まあ、ルークが少し輪に上手く溶け込めてないのは少し心配だけど、俺たち大人が仲裁に入る方がかえって悪影響なんじゃないか? ルークは頭がいい。あいつなら上手く折り合いをつけるだろうよ」
「もう、ガイ。そういうことじゃなくって」
ミレイは隣に座るガイの腕を掴むと「ほら、あの子たちも思春期でしょ……」と囁いた。
「ああ、そういうことか」
ガイは納得したように頷くも、態度を変えることはなく、
「それこそ大人がアレコレいうことじゃないんじゃないだろ」
「僕もガイの言うとおりだと思うよ。そんなこと好きにやらせておけばいいのさ。僕たちの業務に子供の恋愛を管理するなんてものはない。大人がとやかく言うなんて旧時代的なこと、僕は勘弁だよ」
「シンディまで……ねえ、船長はどう思います? 船長もあの子たちの自由にさせておけばいいと?」
ミレイは黙って話を聞いていた船長に水を向けた。話を振られた船長は腕組みをしながら低く唸ると、
「どうだかな……ガイとシンディの言うことも分かるが……だからといってミレイの言うように放任することへの不安はある……」
「私だって本当は恋愛くらい自由にさせて上げたいと思う。でも、今は状況が状況だし。何かが起こってからじゃ遅いと思うの」
「うーん……」
船長は再び低く唸った。すると、ガイが口を開く。
「なあ、ミレイ。お前は何をそんなに心配してるんだ? お前が言ったように思春期なんだからそういうこともあるだろうよ。でも、それが普通だ。多少の色恋沙汰があるほうが健全ってもんだろう?」
「違うのよ、ガイ。私が心配してるのは――」
「なるほどね」
皿の上に乗せられていたゼリーの最後の一切れをフォークに突き刺しながら、シンディがミレイの言葉を引き取る。
「つまり……君はこの先、男子たちの誰かが性欲を抑えきれず、同意を得ないまま女子を襲ってしまうのではないか、と。そういうことを言いたいんだね?」
「ええ。そうよ」
「おいおい、そりゃねえだろ!?」
ミレイが頷くと、ガイがそれに反発する。
「男をそんな獣みたいに! いくらなんでも、さすがにそれは言い過ぎだぜ」
「もちろん、全員が全員そうだとは言わない。けど、そういう一面がないとは言い切れないでしょ? 一度スイッチが入ったら自分では止められない。ほら……ガイも昨日の夜だって、一度スイッチが入ったら……」
「ば、バカっ! それとこれは違う話だろ! あれは俺とお前の関係があるからのことで――」
痴話喧嘩を始めた二人の様子を見、シンディと船長は互いに顔を見合わせ肩を竦めた。
「――けれど、ミレイの言うように、多少の気を回すくらいはしてもいいのかもね」
「でしょう? カウンセリングというか、少しそういう話をしておくだけでも効果はあるのかなって」
「まあ、そうだな。俺はあいつらを信じたいけど、何かがあってからじゃ遅いからな……これからのことを考えるとその方がいいのかもな」
「……よし。じゃあ決まりだな。我々、大人が子どもたちに性教育を施す方向でいこう。皆、それでいいな?」
他三人の大人の意見が合致したとみると、船長が話をまとめ上げる。誰からの異論もなく、これから彼らがすべきことの一つに「子どもへの性教育」が追加された。
それで話が終わると。彼らは各々食堂を出て行った。船長もコップに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと食堂を後にした。
自室に戻った船長は食後の休憩を、とベッドに腰かける。
「――しかし、思春期の男子に自重しろと言うだけで充分なのか? 性教育を行うことで、異性への興味を余計にかき立てることになるんじゃ……」
ベッド横に置かれた端末を手に取ると起動する。
「ただ知識を与えるだけじゃなく、それを上手く吐き出す道具も与えるほうがいいのか? けど、それもまた逆効果になることも。とはいえ、何もしないのではやはり……」
船長が端末を操作すると、裸の男女がまぐあう様子を収めた映像が表示された。それは船員が行き場のない性欲を各自で効率よく処理するために用意されたものであり、原則として成人前の子どもはアクセス権限が与えられていない。
「どうするのがいいのか、わからないな……やっぱりこれはもう一度皆で話し合う必要があるか」
端末の画面に映る動画のサムネイルを眺めながら船長は物思いに耽る。すると、無意識のうちに下腹部が徐々に熱を帯び、膨張を始めるのを感じた。船長は服の上から己の下半身を見下ろす。
「……一度スッキリさせておくか」
船長という立場上、どんなときも冷静にいることが彼には必要とされている。これも業務の一つだと、船長は自分に言い聞かせてベルトを緩めると、ズボンを下ろした。それから端末に表示されている動画の一つを選択すると、船長は右手を自分の下半身へと伸ばした。
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