第56話 小日向のお誘い

 小日向が集合場所に指定したのは、駅前のハンバーガーショップだ。


 ここに来たのは二週間ほど前の話だが、それが何故か随分懐かしく感じた。


 あの頃は、まだ冬陽が13歳だったからだろうか。思春期剥き出しの女子とどう接していいか分からず、小日向に相談を持ちかけたのがこのハンバーガーショップだった。


 店の前で立つこと数分。いつもの少し抜けた声が夏樹の名前を呼んだ。


「おーい、夏樹くんー」


 小日向は小走りで駅の方からやって来た。


「むっ!?」


 しかし、その様子に夏樹は瞠目した。


 今日の小日向は、ボーダーのシャツの上にデニムジャケットを着て、下はグレーのロングスカートという服装だった。そんな彼女が、小走りでこちらに向かってくる。問題はその走っている様子だ。


 揺れているのだ。ばいんばいんと、大きなおっぱいが!


 しかも、ボーダーの柄のせいか、いつもよりおっぱいが大きく見える!


「はぁ、はっ……ごめんね。ま、待たせちゃったかな」


 夏樹の前で膝に手を当てつつ、小日向は息を整えながら彼を上目で見上げた。


「い、いや! 俺も今さっき来たところだから! ぜ、全然待ってないから!」


 何でもない風を装いつつも、先程から夏樹の目線は大きく上下する小日向の胸に目が向かいっぱなしだ。哀しきかな男の運命。夏樹はそう思った。


 夏樹の邪な視線に気付かない小日向は、ゆっくり立ち上がるとハンバーガーショップの入り口を指さした。


「そ、そっかぁ。それじゃあ、早く入っちゃおうか」

「お、おう」


 このまま入口にいるのもあれなので、二人は店内に入った。


 適当にポテトのMサイズとドリンクを注文し、それを持ったまま二人席に座る。


 夏樹はコーラを一口吸うと、さっそく切り出した。


「それで、話ってなんだ? 学校も二日間くらい休んでたみたいだけど、それと何か関係があるのか?」

「……うん」


 オレンジジュースのコップから顔を除くストローを口に付けたまま、小日向は僅かに顔を俯かせた。彼女の顔をよく見ると、目元が少し赤い。


「えっとね、私から説明する前に……まずは、これを見てほしいんだ」


 そう言って小日向が取り出したのは、彼女のスマートフォンだった。


 小日向は薄桃色のスマートフォンを慣れた手つきで操作する。そして、準備が整ったのか、スマートフォンを夏樹に手渡した。


「これは、動画?」


 画面は真っ黒で、中央に再生マークが表示されていた。


「うん。それは、若菜のお願いで私が撮ったものなの。とにかく、見てあげて」

「あ、ああ」


 言われるがままに、夏樹は動画の再生ボタンを押した。

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