第38話 仲直り

 結局、冬陽はそのまま泣くばかりで理由を話さなかった。


 日も暮れてきたので、二人は家に帰ることにした。このままじゃ風邪をひいてしまう。


 小日向姉妹も家に来るよう誘ったのだが、二人とも夏樹の誘いを辞退した。きっと、二人になる時間をくれたのだろう。


 ずぶ濡れの二人は、家路を早足で急ぐ。互いに凍えそうになりながら無言で進む。

 とん、とん。そんな二人の手の甲が、歩くたびに触れ合う。


 冬陽はその度に自分の左手を見る。左隣を歩く夏樹は気付いていないようだ。

 何度目か甲が触れ合った、その時。


「……えいっ」


 冬陽は、意を決して夏樹の手を握った。


「うわっ、冷たっ。な、なんだよ冬陽。どうした?」

「……別に」

「別にって、俺の手を握っても暖は取れないぞ? 俺もびしょ濡れなんだから」

「……いいの。つべこべいわないで」


 冬陽の言動に戸惑う夏樹は、ぽりぽりと後頭部を掻く。そんな夏樹に、冬陽は自然体を装って訊いた。


「……ねえ、お兄ちゃん。教えてほしいことがあるの」

「教えてほしいって、何をだ? 言っとくけど、もう隠し事はないぞ?」

「分かってる、そんなこと。……あのね、元の冬陽のこと、教えてほしいの」

「元の冬陽のこと? でも、急にどうして?」


 夏樹はきょとんとしたまま訊き返す。


「……知りたくなったから」


 冬陽は夏樹から視線を逸らしたまま言った。

 夏樹は少し不思議に思ったが、やがて快く頷いた。


「分かった。俺の知ってる冬陽であれば、いくらでも話すよ」

「……惚気話を話したら蹴るから」

「はいはい」


 そんな浮ついた話は無いんだけどな。と心の中で呟いて、夏樹は冬陽と腕を組みながら家路を急いだ。


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