第32話 冬陽の回想
『本当の事を知りたくないかい?』白衣の男はそう冬陽に言った。
胡散臭い男は、眉を顰める冬陽を見て楽しそうに笑った。
『君はこれから、ある大事な選択をしないといけない。今後の人生にも関わる大事なことだよ。でも、それをお兄さんは隠している。他でもない君自身のことなのにね。どうする?』
どうするもなにも、一体何を隠しているのか。それを知らない限り頷けない。何より、わたしはあなたのことを信用してない。そう冬陽は白衣の男に言った。
そう言うと、白衣の男は再び笑った。
『そっか。そうだよねぇ。年頃の女の子にそう言われたのは二回目だよ。それじゃあ、君のお兄さんの言葉なら信用するわけだ? お兄さんのこと、冬陽ちゃんは大好きだもんね?』
うるさい。そう言うのを堪えて、冬陽は無視した。
『まあ、いいや。それじゃあ、お兄さんの部屋にある机の引き出しを見てごらん? きっと日記があるよ。そこには、君の知らない君自身のことが書いてある。その内容は、私が彼に書かせた真実だよ。お兄さんの本当の気持ち、知りたくないかい?』
一瞬。白衣の男と目が合った。蛇のような目だった。
『医者はね、患者に病状を伝える義務がある。でも、この病気は私から君に伝えるのでは意味がないんだ。保護者の口から説明して、向き合ってもらわないと。でないとね、逃げちゃうんだ。保護者が、君のためとか言ってね。それでは君が可哀想だ』
冬陽には、彼が何を言っているのか理解できなかった。
『君にも知る権利がある。その後どうするかは、君が決めなさい』
それだけを告げられると、冬陽は診察室から追い出された。部屋を出ると丁度夏樹がやって来た。話を聞くと、どうやら入れ違いになっていたらしい。
兄が何かを隠している。先程の白衣の男の言葉が、冬陽の頭の中で蘇る。
そう思うと、何故か今まで通りに夏樹と話せなかった。
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