第12話 幼子を残し
リビングに向かうと、冬陽は何故か若菜と一緒にニュース番組を見ていた。
「りーまんしょっくからにねん。かぶかはかいふくけいこうにある」
「そうだね。経済界もようやく息を吹き返したって感じだね。彼らもよく頑張っていると思うよ」
きっと意味も分かってないであろう冬陽に、若菜もまたよく分からない返事をしている。
「二人とも仲良しさんだね」
夏樹の隣で小日向が笑う。
「だな。にしても、どうしてこんな朝早くに来たんだ? もうすぐ学校だぞ?」
「確かにそうだけど……。ほら、私たちが学校に行ってる間、冬陽ちゃん一人になっちゃうよね? だから、子守役が必要かなあって思って、若菜を連れてきたの」
「そっか。確かに冬陽を見てくれる人がいると助かるな。ありがと、小日向。悪いな、何度も気を利かせてもらって」
気配りができる小日向を本当に尊敬して、夏樹は頭を下げる。
小日向は顔を赤くしてブンブンと顔を横に振った。
「い、いいんだよー。二人の役に立てて、私も嬉しいし。それに、若菜も冬陽ちゃんに会いたがってたし。きっと、嬉しいんだと思う。同じ病気を持った友達が、近くにいて」
小日向の気持ちを、夏樹も察することができた。この病気に急激な成長という症状がある限り、冬陽たちは学校には行けない。となると、自然と一人になる時間が増える。
若菜にとって、冬陽だけが同じ気持ちを共有できる友人なのだろう。
しかし、夏樹は先程の小日向の言葉に疑問を持った。
「同じ病気を持ってるって……教えたのか? 若菜ちゃんに、自分が本当の小日向若菜じゃないって」
意外だった。少し残酷かもしれないが、彼女たちクラン症候群を患った人格の寿命は薬が届くまでの間だけだ。なのに、そんなことを知らせてしまったら、彼女たちは深く傷つくに違いない。
優しくおっとりした小日向が、それを良しとしたことが夏樹には信じられなかった。
「うん。まあ、色々あってね」
少し俯いて、零すように言う小日向。一体、二人の姉妹の間に何があったのか。
夏樹は気になったものの、それを訊く勇気が無かった。
と、そこへ先程の会話が聞こえていたのか、冬陽が寂しそうな顔をして二人を見上げていた。
「ねえ、兄ちゃん。兄ちゃんたち、どっか行っちゃうの?」
不安そうな冬陽。夏樹はしゃがんで片膝を床に着けると、冬陽の頭をそっと撫でた。
「ああ。俺と小日向は今から学校なんだ。夕方には帰ってくるから、それまで若菜ちゃんと一緒に、ここで遊んでいてくれるか?」
冬陽は俯いたまま自分の頭に伸びる夏樹の腕を握った。そのまま少しの間じっとすると、寂しそうな瞳で夏樹を見上げた。
「独りぼっちじゃないなら……ふゆひ、がまんするね」
「よし。冬陽はいい子だな。帰ってきたら、ちゃんとパズルゲームで遊んでやるからな」
といっても、冬陽は負けるとすぐグズる。だから昨日はもめにもめた。やがて、パズルゲームを始めて一時間もした頃には夏樹の接待プレイになっていた。
あれをもう一度するのかと思うと、正直辟易とするが……仕方ない。
冬陽は、怒られた子犬のような寂しそうな表情で夏樹を見上げる。
「うん。やくそくだよ? ちゃんとふゆひが10連勝するまでしてくれる?」
「あ、ああ。やる。やるってば」
昨日は冬陽が5連勝するのに接待プレイでも一時間半かかったというのに……。
そう思いつつもひとしきり冬陽を宥めると、夏樹は立ち上がって時計を見た。
時刻は8時前を指していた。
「やっべ。そろそろ用意しないと……。小日向、ちょっとだけ待ってってくれるか? 急いで着替えてくるから!」
「う、うん。リビングで待ってるね」
「おう」
言い終わるより早くリビングを出ると、自室に戻った夏樹は急いで制服に着替えた。
スクールバッグを開いて、今日学校で使う教科書と体操服を突っ込むと、それを肩に掛けて再びリビングへと戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます