第8話

私は黒板の方を向き、チョークを持ちながら


「何か案をお願いします」

「人任せするんだ〜」

「だって、思いつかない」


友梨から抗議の声をあしらった。そのまま静寂な時間が過ぎていく。私は耐えられなくて、チョークを回していると、


「僕が優風がどこに向かっているか調べましょうか?そして、分かったら、友梨さんに連絡する案はどうですか?」


手を上げて提案してきた谷川さん。すかさず友梨から


「それは有難いけど…。谷川さんに負担が大きいと思う。彩香もそう思うよね」

「うん、谷川さんの負担が大きい。そもそも調べようと思ったのは私たちだから」

「いや、僕が調べる方がいいと思う。最近は常に気を張ったままの状態だから、気を許されている僕の方が気づかれにくいと思うけど」


全面的に協力してくれる姿勢の谷川さんに、私と友梨が顔を見合わせて、立ち上がり頭を下げ


「「お願いします」」


谷川さんも慌てて立ち上がり


「いや、頭なんて下げなくてもいいのに…」

「そんなことないですよ。お願いしてる立場なのでこれくらいしなきゃ」

「そうです。私たちが急に近づいてきても怪しまれると思うし、昨日のことでも警戒されていると思うので…。それに彩香なんて分かりやすいから、本当によろしくお願いします。なにか分かったら私の方に連絡を早めにお願いします」

「わかりました」


私は谷川さんが手伝うと情報がすぐに集まるような予感がした。二人だけでは得られなかった情報も手に入れられると考えていると、谷川さんが時計を見て


「すみません。もう時間が無いのでお先に帰ります。今日は本当にありがとうございました」

「時間がかかってしまってごめんなさい」

「いえ、気にしないでください。僕はやっと原因を知れたので…。お疲れ様でした」

「谷川さん、お疲れ様」


私は手を振ろうとしたが、こちらを振り向かずにすぐに教室を出て行ってしまった。

友梨が椅子に座り、


「すぐに出ていったね」

「ギリギリだったのかもね」

「彩香のせいで長くなったからね」

「私のせいじゃないよ。友梨のせいだから」


私も向かいの椅子を友梨の方に向けて座る。友梨が少し暗い雰囲気を纏っていた。多分、谷川さんの気持ちを考えて落ち込んでいるのだろう。谷川さんに彼女がもしかしたら青春泥棒なのかもしれないことを伝えて、手伝ってほしいと言ったのはやっぱり良くなかったのかもしれないと後悔をしているだろう。


「友梨」

「何?」

「谷川さんが潮中さんを調べてくれるのはいいけど、私たちは何をするか考えよう。ただ待つのはもったいないし」

「そうだね。何がいいかな?」

「うーん」

「話を振ったのに案が出せないの?」

「いや、出来る。ちょっと待ってて」

「分かった。待つから。メモしながらの方がいいよね」


紙をカバンの中から取り出して、ペンを持つ。私が考えている様子を見て、真剣に自分の意見を考え始めたようだ。考えすぎてしまう友梨は1人になってしまえば、落ち込んだまま立ち直るのに時間がかかる。作戦を考えたフリをしながら、今日は時間が許す限り、友梨の隣で過ごそうと決意したのだった。
















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青春ドロボー 泡沫 知希(うたかた ともき) @towa1012

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