純愛

多戸 遊蘭

1話完結

8月10日、一人の青年が殺人の疑いで逮捕された。彼は、阿毘山での事件について起きたことを話し、自分は無実だと訴えたが警察はそれを信じなかった。なぜなら、山へ警察が向かった時に彼の指紋がついた凶器が見つかり、証拠としてあがったからだ。彼の無実は証明されず。懲役10年と言われた。しかし、数年後、彼は釈放された。これは、彼の話に基づいた記録の話。

 

8月9日

とある大学のサークルで男女4人が心霊スポットへ行くことになっていた。4人は、大学2年生で何度が心霊スポットへ行っていた。そして、今日はどこの心霊スポットへ行くかを大学のテラスで話し合っていた。

「よし、今日はあの山に行こう!絶対に出るって噂の阿毘山!」

元気に仕切っているのは、サークルのリーダー佐藤彩人と。長身でガタイもよく、俗に言う体育会系というやつだった。彼は心霊が大好だが、幽霊を信じていないタイプだ。このサークルができたのも彼が先生に頼み込んだかららしい。

「彩人は前も絶対に出るってところで出なかったじゃん。どうせまた暗い所歩くだけでしょ?」

彩人に反論しているのは、彩人の幼馴染の川村美紀江。モデル体系の彼女は、現に芸能活動をしていて、雑誌の一面に最近載るようになった。彼女も彩人同様心霊好きで、心霊スポットへはあまり行かないものの、そういった話や映画などが好きだ。

「彩人くんもう行くのやめよ?たまたま前回までは何もなかっただけで、今日は何か起こるかもしれないよ?」

そう言って二人を止めるのは、彩人の彼女の中村理奈。彼女は、体系も顔も世間一般的に普通の女性だ。心霊は好きではなく、逆に嫌いな方で二人の押しに負けていつも、ついて行っている。

「まぁ、何とかなるって。ちゃんと予防策はしてあるんだからさ。」

理奈を落ち着かそうとしているのは、長屋達也。彼は、彩人と同じ高校で一緒にサッカーをしていた。彼は、霊感があると言っていて、彩人と美紀江に頼りにされている。

「なら、21時に阿毘山の下にあるコンビニに集合な!遅れずちゃんとこいよー」

その会話が終わると、4人はそれぞれテラスを出て行った。彩人と理奈は一緒に帰り、夜まで彩人の家で時間を潰すようだ。美紀江と達也は自宅へ戻る。

「彩人くん。なんでそんなに心霊スポットへ行くの?怖いだけじゃん」

理奈が、彩人へ聞く。理奈は前から彩人が心霊スポットへ行くことを止めていたがなかなか聞いてくれないので不満に思っていた。そして行くたびに心配だから、怖いのを我慢してついて行っているのもあるそうだ。

「大丈夫だって。幽霊なんか存在しないよ。今まで見たことないんだし、ただ雰囲気が出てくるって思うだけだよ。安心しな。」

理奈の頭を撫でながら、優しく答える。二人はゆっくりと歩きながら彩人の家へ向かった。家に着いた頃だいたい18時頃だった。

「先にシャワー浴びてきな。俺は飯作っとくから。」

わかったーと返事をして、理奈はシャワー室へ向かった。その間に軽く部屋の掃除も済ませようと彩人は物を片付け始めた。片付けていると見たことない物を見つけた。それは、自分の指より少し小さい指輪だった。内側には特に何も書いていない。

理奈のかな?と思いあとで聞こうと机の上に置いた。そのまま片付けを済ませて、夕食の準備を始めた。男ならではの簡単な肉と野菜を炒めた物を作る。作り終えると、まだ理奈がシャワーに入っていたので、少し寝ることにした。目を覚ますと20時頃だった。寝過ぎたなと思い、起き上がると、横で理奈も眠っていた。

「あ、おはよ。よく眠ってたね」

理奈は彩人が起きた拍子に目を覚まして、笑顔で話した。二人で少しぼーっとした後に彩人は思い出したように

「あ、理奈これ誰のかわかる?このサイズだと俺のじゃ小さいし理奈のじゃないの?」

先ほど見つけた指輪を理奈に見せる。理奈は不思議そうな顔で

「何これ。たしかにサイズ的には私のだけど知らないよ。」

お互い知らないものだったので彩人は指輪をゴミ箱へ捨てた。そして彩人は時間もないのでシャワーを浴びに行った。

その頃、達也は自分の家に着くと出かける準備を始めていた。

「いやー、霊感があるって言っとけば色々と頼られるもんだなー。楽なサークルに入ったもんだよ。」

にやけながら独り言を話す達也。そう、彼は霊感があると嘘をついて3人と絡んでいた。彼も幽霊は全く信じておらず、ただ遊び半分で心霊スポットに行っていた。準備を終えてゆっくりしていると

「ん?なんだこれ」

机の下にある物を見つけた。それは小さな指輪。自分のどの指にもはまらない指輪で

「俺こんなの買ったっけ?まぁいいやお洒落だしチェーンに付けてネックレスにしよう」

彼は玄関に飾ってあるアクセサリーの中のチェーンを一つ取り指輪をつけた。そのまま部屋のベッドに寝転がり時間まで寝ることにした。

一方、美紀江は、家の近くにあるカフェでコーヒーを飲んでいた。

「あぁ、また心スポかぁ。そろそろ飽きてきたんだよねぇ。にしてもなんで彩人はあんな普通な理奈がいいのかなー。ずっと私はそばにいたのに」

ぶつぶつと文句を言いながらコーヒーを飲む。会計しようと財布を取り出すためカバンの中を見ると、小さな指輪があった。小指にはまるサイズだった。

「ピンキーリングかな?事務所で誰かが間違えて入れたのかな。今度事務所行った時にでもきこーっと」

そのまま指輪を鞄の中に戻し財布を取り出して会計を済ませた。店を出ると、すぐ家へ戻る。家へ着くとすぐに洗面所へ向かった。一度化粧を落としシャワーを浴びた。鼻歌まじりの声がシャワー室から部屋に響き渡る。シャワーを終えると再び洗面所へ行き、洗顔をして出かける準備を始めた。

周りも暗くなり、街が静かになった21時頃。

阿毘山の下にあるコンビニへ彩人、理奈、美紀江が揃っていた。

「達也は?あいつ、いつもめちゃくちゃ早くついてるのにな。寝坊か?」

彩人が笑いながら話す。二人もたしかにありえそうとうなずきながら笑っている。そのまま20分が経った。達也がくる気配が全くない。3人は心配になって達也へ電話をかけるがコールするだけで電話に出ない。

「でねーなあいつ。でも、あとから合流するだろ。先に行こうぜ」

彩人が言うと3人は歩いて阿毘山の麓にあるトンネルまで向かった。

暗い山道を3人は歩いていく。だんだんと坂がきつくなっていく。坂を上り切るとトンネルを見つけた。

「このトンネル今はもう使われてないんだよね。電気もついてないし不気味」

理奈が怖がりながら話す。理奈は彩人の後ろにくっついて歩いていて、その横を美紀江は歩いている。美紀江は少しふてぶてしい顔をしている。

「ちょっと、二人近すぎじゃない?そんなんだと何かあった時危ない。」

「わかったよ。理奈、少し離れれるか?」

理奈は少し嫌な顔をしながらも、うんと頷き彩人から離れる。3人は着々と進んでいきトンネルに入った。使われてないが故に暗く、空気が冷たい。持ってきた懐中電灯でやっと周りが見える程。3人は少し身構えにながら歩き進める。ざっと30メートルほど歩くとトンネルを抜けた。周りが木や草だらけの真っ暗な空間。風なのか動物なのか周りの木々がざわめく。

「うわぁ、今まで以上に雰囲気あるなぁ。今回こそほんとに出そうだな。」

彩人は嬉しそうな顔をして歩く。美紀江と理奈は言葉が発せないほどおびえている。道路補正されていた道がどんどん獣道へ変わっていく。3人の足音が草や枝を踏み響く。少し進んだところで

「ねぇ、もう帰ろ?嫌な感じがするし気持ち悪い。」

理奈が体調悪そうにしている。彩人は大丈夫と言い手を引き歩いていく。

「わぁ!」

草陰から人が出てきた。3人は驚いて、理奈と美紀江は尻餅をついてしまった。彩人が持っていた懐中電灯をその方向へ向けると達也だった。

「あっはっはっはっは。めっちゃビビってんじゃん。待った甲斐あったなぁ。」

腹を抱えながら達也が笑っている。達也は集合時間の30分前に着いていて3人を驚かすために待っていたのだ。

「ふざけんなよお前。来ないと思ったらこんなとこで待ってたのかよ。」

彩人は達也の頭を軽く叩いた。彩人と達也は笑っていたが、美紀江は怒っており、理奈は泣きそうな顔になっている。

「わるいわるい。いつも刺激が足りなかったからさ」

笑いながら達也は美紀江の手を取り立ち上がらせる。そして彩人は理奈の手を引き立ち上がらせようとするが、理奈は完全に腰を抜かせてしまって立ち上がれない。

「理奈、大丈夫か?この先はおぶってくよ」

理奈は首を縦に振り彩人の背中に寄りかかった。4人全員揃ったところで山道を進み始めた。足場の悪い山道を歩き続けると、古い小屋を見つけた。4人は小屋に向かって歩き、小屋の入り口の前に着いた。

「この小屋、何に使われてたんだろ。昔、山で仕事してた人が物置として使ってたのかな。」

彩人が話しながら扉を開けた。中は物で散らばっており、大きなテーブルが一つと、山での作業で使うような小物があった。テーブルの上には一人用の食器が並んでいた。ここ数年誰も使っていないような雰囲気だった。小屋の中の物は全て埃がかぶっていて、小物も全て錆びて使い物にはならない。小屋の中を歩き回って何かないか探していたが、特に何もおもしろいものは見つからなかったようだ。雰囲気に圧倒され無言のまま4人は小屋を出た。

「小屋の雰囲気ヤバかったな。今までで一番怖かった。」

さすがの彩人も少し怖かったようだ。小屋の周りも探してみようと彩人が小屋の後ろに続く道を見つけ、歩き始めた。歩き続けると分かれ道が出てきた。

「この先は二手に分かれた方がおもしろうそうだ。俺は理奈おぶってるしこのままいくよ。達也と美紀江はそっちの道行ってくれない?」

はいはーいと二つ返事で4人は二手に分かれて二人づつで進んだ。

彩人と理奈は、歩いていると木に刺さっているオノを見つけた。木も腐っており今にも落ちそうだ。彩人がオノを持って抜こうとすると、取手部分が濡れていた。

「最近雨降ったっけ?それか山の方だけ降ったのかな。」

そのままオノを地面に捨てた。山の中だからこそ熊に遭遇する可能性があったので持ったまま行こうとしたが、理奈をおぶっているので下手に動けないと思って捨てた。オノがあった場所から少し進むと、すぐ目の前が崖になっていた。

「これ以上進めないな小屋のところまで戻ろう。理奈、大丈夫か?」

理奈を心配して問いかけるが、返答はなかったその代わり理奈は首を縦に振った。二人は休憩も兼ねて先ほどの小屋まで戻ることにした。

達也と美紀江はというと彩人たちとは違い、補正された道に出た。行き止まりはなくただ奥までずっと続く暗い道路になっていた。

「うわぁ、これ以上奥に行ったらやばそう。達也、さっきの小屋まで引き返そ?」

美紀江は達也の服を引っ張るが達也はなかなか引き返そうとしない。

「こんな今までワクワクする場所ねぇよ。幽霊なんてどうせいねーし、いたとしても俺がなんとかしてやるよ。」

自信満々に達也は答えた。美紀江は完全に呆れている。

「何かあったらあんたのせいにするからね」

嫌がりながらも美紀江は達也について行った。二人は補正された道をずっと道沿いに進んでいくと、道の端に小さな鳥居があるのを見つけた。それは、道路の交通安全祈願として置かれた物だった。かなり汚れており、雨などで壊れかけていた。達也は面白がって、鳥居の中にある石を手に取った。石をよく見ると文字が書かれていた。よく小さい子がやるような悪戯なのか、

「あやと/りな」

と汚くひらがなで書かれていた。二人は目を合わせて驚いた。先ほどまで一緒にいた二人の名前が書かれていたからだ。その時、達也は何かを察したのか、やばいかもと小声で言って美紀江の手を取り、小屋のある方向へ走った。達也の急な行動に美紀江は頭が追いついていない。

「ねぇ!急に走って、なにがあったの!」

息を切らしながら美紀江は叫ぶ

「こーゆー心霊が起きやすいって言われてる場所で、身近にいる人の名前があるってことはそいつらにやばいことが起きるかもしれないってこと!」

達也は血相抱えて走っている。暗い道だったので少し迷いながらだったが小屋へたどり着いた。慣れない運動に山道での道の悪さに二人は息が上がっている。呼吸を整えながら、小屋へ近づく。達也は足がフラフラした状態で扉に手をかけ開けた。小屋の中へ入ると、誰もいなかった。まだ戻ってきていないのか、それとも何かあったのか、二人が俺みたいなドッキリで待ち伏せしているのかなど、達也の頭の中でぐるぐると色んな想像が不安を駆り立てる。もちろん、物も少なく小さな小屋、人が隠れる場所なんてないし、隠れていてもすぐに分かる。達也は

「美紀江、お前はここで休んでろ俺は二人を探しにいく。すぐに戻る」

わかったと美紀江は返事をする。その言葉を聞いてすぐに達也は彩人と理奈が向かった道へ走って行った。

達也は、彩人と理奈が向かった道をただひたすらに走り続ける。暗闇で道もわかりづらい中転びそうになりながらも走る。周りを見渡しながら走っていると点滅する小さな明かりが見えた。達也は二人はもしかしたらあそこにいるかもしれないと灯りの方向へ走っていった。明かりがある場所へ着くと、切れかけの懐中電灯が転がっていた。さっきまで彩人が持っていた物と同じだった。くそっ、遅かったかと達也は呟いた。達也は、懐中電灯があった近くを探す。懐中電灯が切れかけているので携帯のライトを照らした。足下くらいしか照らせなかったが気にせず二人を探し続けた。すると、草影から足が出ているのに気がついた。草をかき分けると女性がいた。ホッと達也は安心したが、暗くて顔が見えづらいので誰かはわからないけど理奈に似た体型だったので理奈と思い起こそうとして声をかけたり、体を揺らしても起きる気配がない。このまま放っておくにはいかず理奈を背負って、次に彩人を探すことにした。完全に力の抜けた理奈をおぶって歩くには達也には相当な体力が必要だった。さっきまで走っていたせいで足もフラフラの状態。なんとか理奈を落とさないようにゆっくりと進む。彩人が進んでいっただろう道を進んでいくと道の端にオノが転がっていた。オノにライトを向けると、取手の部分が濡れているのか水滴で光が反射する。そのまま刃先の方を見ると血がついていた。

「おいおい、幽霊とかじゃなくてまさか、殺人?オノについてる血もあまり乾いてない。彩人もだけど美紀江も危ない。早く彩人を見つけて戻らないと。」

達也は踏ん張りながら先ほどよりも早足で彩人を探す。30分ほど探すがなかなか見つからず、もしかしたら入れ違いで小屋に戻っているかもしれないと思い、達也は来た道を戻る。

その頃、小屋にいた美紀江は、3人が無事に帰ってくることを願っていた。自分も探しに行こうと、外へ出ようとした時、外からドンドンドンと三回強くノックされた。3人が帰ってきたと思い開けようとした時、扉の下から煙が入ってきた。美紀江は驚いて後ろに下がった。そして、小屋の至る隙間から煙は入ってきた。美紀江は怖くなり、小屋の真ん中にしゃがみこんだ。小さな小屋だったため煙はすぐに部屋中を白くした。美紀江は煙を吸ってしまい、咳き込んで意識を失ってしまった。

美紀江は目を覚まし、周りを見渡すと小屋の中だった。しかし、手と足はそれぞれ交差して縛られ、宙吊り状態になっている。口は紐と布のような物で塞がれている。全く身動きが取れない美紀江はなんとか抜けようと暴れてみるが動くことによって腕や足がロープとの摩擦で痛むばかり。どうしようもない状態の時に、扉から誰か入ってきた。真っ黒な服でフードをかぶっているため顔が見えない。美紀江は怖くなり叫ぼうとするが口が塞がれているためうまく声が出せない。

「目が覚めたか?君には恨みがある。だから君を今から殺す。ただ、一回で殺すんじゃなくて徐々にいたぶりながら殺す。まぁせいぜい頑張ってあらがいなよ。」

突如話し始めた小屋に入ってきた者。変声機で声を変えているため男か女かわからない。その正体不明なものは小屋にあった、錆びて使い物にならないようなナイフを手に持ち、美紀江に近づく。美紀江の頬に刃を当て、体の線に沿って、腰の位置までまでナイフの刃を這わせる。すると正体不明な者はナイフを持った手を握り締め美紀江の顔を殴った。一発じゃ飽き足らず5発、6発と殴る。美紀江は無防備な状態で殴られたため、鼻が折れた。痛みで美紀江は叫ぶが布で声が緩和されあまり響かない。

「ほら、すぐに叫ばない。人が来たらこんなに楽しい遊びが終わるでしょ?」

嬉々として、美紀江をいたぶる者。ナイフをテーブルへ置き代わりにテーブルの上にあったスプーンを手に取り美紀江の右目をまるでカニ味噌を混ぜ合わせるかのように、力強くスプーンを押し込みぐりぐりと動かす。美紀江は、痛みで、もがくがそれが逆効果で、どんどんと目の中をぐちゃぐちゃにされ、右目の眼球が取れた。神経はまだつながっている状態で目のあった空洞からぶら下がっている。ただ、眼球は丸い形をしていなかった。次に、左目をへら部分を使って押し込んだ。なかなか奥に入らないので両手で押し込む。するとぽこっという音で左目が奥へ入っていった。美紀江は声にならない声で呻いている。正体不明の者はけらけらと笑っている。美紀江が痛みで意識が朦朧としている中、口を塞いでいたものが外された。代わりに何か生暖かいものが口に入れられた。入れられたものがわからず、なめたりかじったりすると顔の右側が痛い。

「ほら、それは美味しいお肉だよ。ちゃんと噛んで食べるんだよ」

美紀江は恐怖で言う通りにするしかなかった。口の中の得体も知れないものを思い切り噛んだ。すると、右目があった場所に激痛が走る。

「君、最高だよ。言う通りにして自分の目を食べちゃうなんてさ。もっと楽しませてくれよ」

次に、またナイフを持ち美紀江のお腹を思い切り刺した。ザクザクと何回も刺し、刺されたお腹に穴が空きどろっっと内臓がでてきた。美紀江は痛みで完全に意識を失ってしまった。

「あーあ、終わっちゃったかー。残念。でも、あなたが悪いんだよ。ずっと彩人くんのこと狙ってるの分かってたんだから。彩人くんは私のもの。ね?美紀江ちゃん。あ、ちゃんと指輪つけてる。じゃあ、もらうねその左手の『小指』」

フードを取り、変声機のついたマスクを外す、理奈。

一方達也は、彩人を探すため山の中を歩き続けている。彩人を探すため、一度背負っている理奈をおろそうと小屋へ向かった。小屋へ着くと何やら鉄のような匂い。背負っていた理奈を下ろし、いるはずの美紀江を探す。携帯のライトを使い小屋の中を歩くが誰もいない。やはり、先ほどのオノを使った何者かが美紀江を襲ったかも知れない。そして、理奈を連れて山を一旦降りようとしたが、ライトで理奈を照らすと、理奈には似ているが、同じ格好をした全然知らない人だった。

「誰だこの人。理奈じゃない?なんであんなところにいたんだよ。」

困惑しながらも達也は女性を背負い小屋を出た。来た道を戻りトンネルのところまで戻ってきた。達也はトンネルの入り口の脇に女性を座らせ、彩人と理奈、そしていなくなった美紀江を探しに山へ戻った。そして達也は小屋まで走ってきた。もう一度美紀江を探そうと小屋の中をくまなく探す。すると隅に大きな雑毛布が包まれている。先ほどまではなかったもので達也は気になって雑毛布をめくる。するとそこには頭から血を流した彩人がいた。

「彩人、大丈夫か!何があった!」

自分が羽織っていた服を枕にして、彩人を横にした。息はあるが、意識がない。このまま安静にした方が良さそうだが、美紀江がいなくなった以上ここも危ない。自分よりガタイがよく、一回り大きい彩人を達也は肩で持ち上げ、山を降りた。先ほどのトンネルの入り口まで着くと、彩人が目を覚ました。かなり強く頭を殴られたらしく、意識が朦朧としている。

「達也?俺なんでこんなところに。」

彩人はまだ意識がはっきりしていない様子。

「あの道ずっといったら崖があって小屋に引き返そうって思った時に後ろから誰かに殴られて・・・。理奈は?!達也、理奈は見てないか!」

見てない。と首を横に振る。彩人はふらつきながらも立ち上がり山に戻ろうとしている。

「彩人、そんな状態じゃ危ない!ここにいろ!理奈は俺が探す。彩人はこの人と一緒にいてくれ。」

彩人を必死に引き止める達也。彩人は達也の指差す女性を見るとその顔に見覚えがあったようだ。驚いたような怖がっているような顔の彩人。

「優奈ちゃん・・・?なんでここに。」

彩人の反応に戸惑っている達也。

「知り合いなのか?」

達也は彩人へ問う。

「この子は理奈の双子の妹の優奈ちゃんだよ。理奈と付き合い始めた時から何回か3人で遊んだことがあったんだ。顔はそっくりだけど、理奈とは真反対の性格で元気な子だよ」

彩人の言う優奈という女性は、彩人たちが行っている大学の隣にある大学に行っていた為、関わりはなかった。なので、達也は優奈のことを知らなかった。

「でも、いつからここに?でもちゃんと最初にいたのは理奈だったはず。」

完全に混乱している様子の彩人。彩人と達也が困惑している中、優奈が目を覚ました。

「・・・どこ、ここ。あれ、なんで彩人さんがいるんですか。」

優奈はなぜここにいるのか全く把握していなかった。トンネルの入り口で3人は戸惑ったまま動けない状態。

「と、とにかく、俺は理奈と美紀江を探しにいくからここで待っててくれ。」

達也は、また山へ戻って行った。残された2人には沈黙のまま、達也が山へ走っていくのを見届けた。

「優奈ちゃん、なんでこの山に?」

沈黙を破り彩人が話かける。ただ、優奈は、まだ状況を理解できておらず、今日の出来事を振り返っているようだった。

「今日の夕方、理奈から急に電話が来て、この山に呼ばれたんです。断るとめんどくさいですし、しょうがなく来たんです。ずっと山の中に入って行っても理奈がいなくて、歩いてると小屋を見つけたのでそこにいるのかなって思って入ったら急に口を塞がれて、多分睡眠薬か何か入ってたんですかね。私は気を失いました。それで、目が覚めたらここにいたんです。彩人さんはなんでここに?」

「俺はみんなで心霊スポットに行こうってなってここに。でも、理奈は俺の家にいたはず。優奈ちゃん、それは本当に理奈の声だった?」

優奈は自分の携帯を取り出し着信履歴を見た。最新の着信は理奈だった。優奈は、理奈に電話をかけた。出れば居場所がわかって助けに行けると思ったからだ。だが、その希望は携帯電話から流れる機械音によって消された。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません」

優奈は怖くなり、携帯を落としてしまった。確実にかかってきた理奈からの番号。自分は本当に電話していたのか。何かのショックで記憶が飛んでいないかと、深く考え込んでしまった。優奈の様子を見て、彩人は優奈の近くに寄り添った。大丈夫、と抱きしめる。その時、山側から足音が聞こえた。彩人は、達也だと思い、立ち上がった。だがそこにいたのは、理奈だった。

「優奈、なんであなたが彩人くんの近くにいるの?私から横取りする気?妹なんだからお姉ちゃんの言うこと聞きなさいよ。」

いつもの理奈の雰囲気からは想像のできないほどの顔に彩人は少し後退りする。

「理奈か?どうしたんだよ。そんな顔似合わないぞ。ほら、いつもみたいに笑ってくれ。」

彩人からの言葉が嬉しかったのか、理奈は満面の笑みを浮かべた。その笑顔を見た彩人は、優奈を連れてトンネルの中へ走った。優奈は下を向いていたため理奈の顔が見えなかった。トンネルへ入りしばらく走って落ち着いた頃。優奈が

「彩人さんどうしたんですか?理奈じゃなかったんですか?」

明らからに様子がおかしい彩人を心配して、声をかけた。彩人は息を整えて、震えた声で

「あれは理奈じゃなかった。口元は笑っていたけど目がやばかった。なにかに取り憑かれたような感じだった。達也も心配だけど一旦、山を降りよう。危険すぎる」

何回か遊んでいるがいつもは明るく元気な性格の彩人だが、優奈はここまで怖がっている彩人は見たことがなかった。真っ暗なトンネルの中をひたすらまっすぐ走ってきた二人だが、ここからは安全に行こうと彩人は携帯のライトを照らして進んでいく。数時間前のきた時のトンネルとは段違いに長く感じる。何度か後ろを振り返ったりしたが理奈が追ってくるような感じはしなかった。二人はゆっくりと歩き、トンネルの出口が見えた。やっと出れたと思ったが、景色は先ほどと同じ山だった。そして、理奈が黒い手袋をはめてその手にはナイフがあった。

「おかしい、なんでだ。真っ直ぐ歩いていたのに。なんでまたここに。」

理奈の狂気じみた笑顔、帰れないトンネル。奇妙な出来事続きで理奈が幽霊に取り憑かれて、それがなにかしたのかと疑っている。だが実際は、暗闇の中走っていき方向感覚がおかしくなり戻ってきてしまっただけだった。

「彩人くん、やっぱり私のところに帰ってきてくれたんだ。私たち昔から愛し合っているからかなぁ。前はよくこの山で遊んだよね。覚えてるかなぁ」

彩人は怖さと理奈の発言で言葉が出ない。彩人ははこの山は始めてきたし、理奈とは大学で知り合っている。なので彩人は理奈の言っていることが理解できなかった。

「理奈!あなたが言ってる彩人くんは10年前に行方不明になって下の町の川で死体が見つかったじゃない!今、目の前にいる彩人さんは別人だよ!」

優奈の突然の大声で彩人は少し驚いた。

「え?優奈、何言ってるの。彩人くんは生きてるよ。ほら、だって私の目の前にいるじゃない。彩人くん、あの時は突き落としてごめんね?でもあれは彩人くんが悪いんだよ。私だけのものだったのに他の女の子に優しくしちゃってさ。でも、あんな高い崖から落ちたのに生きてたなんて、彩人くんらしいね」

突き落とした?崖?理奈の言っていることが理解できていない彩人。俺は大学に入ってから里奈と出会ったし、なんなら地元ここ周辺じゃない。だが、二つ理解できたのは、理奈がその彩人くんを崖から突き落として殺したということ。そして、理奈はとても危険な人物だということ。なんで今まで気付かなかたんだろうと彩人は後悔する。この場をどうやって乗り越えようと考えている時に、山の方から達也が走って戻ってきた。

「達也待て!こっちに来るな!」

彩人は今何をするかわからない理奈に達也を近づけられないので、叫んでこっちに来るのを止めようとした。だが、少し下り坂だったせいか止まるのが少し遅れた。その少しの隙を理奈は見逃さず。持っていたナイフを振り向くと同時に大きく振った。身長の違いもあり運悪く、理奈のナイフは達也の喉に刺さった。走っていた勢いもあり深く刺さり、達也の口や喉の切り口から血が溢れ出てきている。達也は体を痙攣させ倒れ込んだ。理奈は、倒れた達也の喉からナイフを抜き、次は心臓めがけてナイフを振り下ろした。

「あーあ。本当は美紀江ちゃんと同じようにいたぶってあげようと思ってたのに。残念。」

達也の胸を刺したナイフを抜き、右手の親指から順番に爪の間に刃先をいれてぺりぺりと剥がした。

「私が上げた指輪はサイズが合わなかったのかな。なんかネックレスみたいにしてるけど、関係ないか。ここで、工作のじかーん♡」

理奈はナイフの代わりに電動ノコギリを取り出し、もう動かなくなった達也の首を金切音を立てながら、刃が下へ進んでいく。完全に刃が通った時、達也の首がごろんと横を向いた。

そして理奈は、達也の左手の『中指』を切り落とした。目の前の光景に彩人は顔が青ざめていった。そして、優奈は初めて目の前で人が殺されたショックで嘔吐してしまった。完全に動けなくなってしまった二人に、理奈はゆっくりと近づいてくる。まず彩人の方ではなく、優奈の方へ歩み寄っていく。嘔吐して下を向いてしまってる優奈の顔を無理やり上げさせて、水筒のような小さな容器をポケットから取り出し、優奈の口の中へ液体を注ぎ込んだ。

「優奈、喉渇いてたでしょ?お姉ちゃんが昔みたいにお水飲ませてあげるね。」

優しい口調で液体を流し込む理奈。だが優しい口調とは裏腹に、液体を無理やり優奈の口の中へ流し込む。声にならない声で優奈が何かを言っている。しかし、優奈の口からは微妙に蒸気がでており、鼻や唇の皮膚がただれてきている。

「あ、優奈ごめーん。お姉ちゃんドジしちゃった。水と間違えて硫酸持ってきてたみたい。」

容器に入っていたものを全て優奈に流し込み、理奈は容器を捨てた。優奈は焼けたように熱い喉や顔を指で引っ掻いてしまいい、そのせいで皮膚がどんどん剥がれてしまっている。

「たす・・け・・て」

彩人に手を伸ばしながらその言葉を最後に優奈は力尽きた。そして、理奈は優奈の左手の『人差し指』を切り落とした。

「これで邪魔者は全員消えたね。やっと完全に二人きりになれたね。彩人くん。それにさっきはごめんね?持ってた石で殴った後に落ちてたオノで叩いちゃって。でもちゃんと彩人君くんが無事でいられるように刃の方でやらなかったんだよ。二人で一緒にいられるならそのくらいの痛みなんともないよね。」

ニコッとしながら彩人の方へ歩み寄る理奈。

「私昔から人の指が好きでね。特に彩人くんのてがとっても好きだったの。だから、彩人くんに近づく邪魔者の指は切り落としてたの。もちろん、ちゃんと遊んでからね」

狂気じみた理奈に彩人は怯えていた。約半年ほど付き合っていたが、こんな素振り一度も見せなかった。

「理奈。なんでこんなこと。俺は、いつもの理奈が好きなのに」

「やだなぁ。今の私が理奈だよ。いままで、彩人くんが見てきたのはただのえ・ん・ぎ」

可愛らしい声と素振りで理奈は答える。だが、彩人は恐怖で怯えたままだった。

「彩人くん、もう私のそばから離れないでね。私が守ってあげるから」

彩人は、近づいてくる理奈が怖くなり、理奈の横を走って抜け、山の方へ逃げた。さきほど自分が向かった分かれ道とは違う方向、つまり達也と美紀江が最初に向かった方向に走って行った。ずっと獣道を走り続け、補正された道に出た。そして、達也たち同様に道の端にある小さな鳥居を見つけた。近くに落ちている石を拾うと自分と理奈の名前が書かれていた。さっきの話からすると、これは昔、理奈が好きだった男の子の名前だ。後ろから理奈が追ってくるかもしれない。そう思い奥の暗い道へ彩人は走っていったその道は偶然下の町まで繋がっていて、彩人は急いで山を降りて近くの交番へ行き助けを求めた。彩人は無事保護され、朝方に警察署へ行き事情聴取を受けた。その際に、阿毘山で起こったことを全て警察に話した。そして、その話を聞いた警察たちは、阿毘山に捜索をしに行った。しかし、そこには3人の遺体があり、それぞれ左手の『小指』『中指』『人差し指』がなかった。そして、理奈は見つからなかった。美紀江の死体は顔と体は、見るに耐えない状態でなぜか右手の小指だけが完全になくなっていた。そして、達也の死体は首から上がなく体だけあったという。達也の持っていた携帯と指紋が一致したため分かったそうだ。優奈はというと顔がただれた状態で阿毘山の下の町にある川で見つかったそうだ。最悪なことに彩人が持ったオノに指紋がついていたことから、容疑者として逮捕された。現場には理奈の痕跡は全くなかったらしい。彩人は誤認逮捕のまま10年の懲役を課せられた。

 

数年後

 

事件の証言と保釈金を出すという人が現れ、彩人は釈放された。彩人は誰かわからず、警察に連れられ入り口まで歩いて行った。そこには、みたことのない黒服の男性が立っており、彩人を迎えていた。

「彩人様、お待ちしておりました。こちらの車にお乗りください。」

言われるがまま、車に乗ると男性は無言で車を発進させた。目的地もわからないまま外の風景を見ている。しばらく走ると、大きな豪邸が見えた。車はその豪邸へ入っていき、入り口の前で止まった。男性に案内され、家へ入っていく。たくさんの部屋があり、男性は一番奥の部屋をノックし

「お嬢様、彩人様をお連れしました。」

そう言って、扉を開けた。部屋に入ると、窓の方向を向いてこちらに背を向けた状態の女性が座っていた。部屋の中は外装同様に豪華な部屋だった。ただ、部屋の片隅に女性の小指ほどの大きさの模型と、やけに立体的な生首の絵が飾っており、布が被せてあった。趣味の悪いものがあるなと思った時、女性が黒服の男に向かって

「ご苦労様。私は話があるから部屋の外で待機してちょうだい」

そう言って女性は男性を部屋から出した。そして、椅子をくるりと回しこちらに顔を見せた女性は、美紀江に似ていた。彩人は、夢でも見ているかのような反応をしている。

「彩人、久しぶり。私の顔忘れちゃった?」

見たことのある顔から発せられる聞いたことのある声に彩人は嬉しくて泣いてしまった。警察からは美紀江は無残な死体だったと聞かされていたからだ。警察も腕が落ちたなと思い、彩人は女性の元へ歩み寄った。そして女性は立ち上がり、2人は強く抱きしめあった。

「美紀江、生きててよかった」

彩人は嬉しくてしょうがなかった。女性も頷きながら、彩人の背中をぽんぽんと叩いている。そして、女性は彩人の耳元で囁いた。

 

「また2人で楽しく過ごそうね。彩人くん。」

 

 

                             おわり

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純愛 多戸 遊蘭 @ArataAkafuji

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