第41話 『家族会議(?)』
「――で? 一体、なに……?」
キッチンへやってきて、
そして、くみさんはとても真面目な顔と口調で話しはじめた。
「あのね、
くみさんが『お義姉さん』と呼ぶのは、俺の母のことだ。
「それは……ありがたいと思ってますけど……」
親族とはいえ、いろいろと面倒をかけさせてしまっているという自覚がある。
だから叔父さんとくみさんの二人には感謝しているし、同じくらい尊敬もしているつもりだ。
「うん。だからね? さすがに『それはどうなの?』って行動には私も口を出さないわけにはいかないのよ」
「はあ……」
この人は何を言っているんだろうか……?
そうは思っても、相手は至って真面目な雰囲気を崩さないため、俺は黙って続きを聞くことにした。
「まず、どうして二枚とも
「え? だって姫川さんが猫好きみたいだし、
「良いこと言ってるけど、ちがーう!」
「えぇ……」
「休日に家まで遊びに来てくれるような相手なんでしょ? それだけ仲が良いなら、どうして『一緒に行こう』って発想にならないの?」
「どうしてって言われても……。さっき言ったけど、姫川さんと由美さんに譲る方を先に思いついたから」
「まったくこの甥っ子は……」
くみさんは溜め息と同時に、嘆くように首を振った。
「一応の確認をするけど、愛葉ちゃんと行くのが嫌なわけじゃないんでしょう?」
「それはそうだけど」
「それじゃあ、悪いことは言わないから、愛葉ちゃんと二人で行くこと。いい?」
くみさんが顔をずいっと近づけ、まっすぐに俺の目を見て言った。
その圧力に、俺は何度も首を縦に振って応えることしか出来なかった。
*
「おかえりなさい……?」
『家族会議』という名のアドバイス(?)のようなものを終えた俺とくみさんを、見送った時と同じような顔の姫川さんが出迎えてくれた。
「お待たせしちゃってごめんなさい、愛葉ちゃん」
「いえ、わたしは大丈夫ですから、気にされないでください」
「ううん、せっかく遊びに来てくれたんだもの。ということで、私はそろそろおいとまさせていただきます」
そう言った後、くみさんが俺の背中を軽く叩く。
そして、俺にだけ聞こえるよう「さっき言ったこと忘れないように」と念押しされた。
俺が「はいはい」とテキトーにも聞こえる返事をすると、それを見た姫川さんはまた首を傾げていた。
「じゃあ、桐真君。そういうことで夕飯はうちでね~」
くみさんの言葉に、姫川さんが納得したように首を元に戻してから納得した様子でうなずいた。
くみさんの言ったことは一見、姫川さんに誤魔化すためのものに思えるが、実際のところは『夕飯の時に結果報告してもらうからね』という意味であることが笑顔から読み取れてしまった。
俺は出かかった溜め息をなんとか飲み込み「わかった」と短く答えておいた。
くみさんが帰ったことで、部屋には再び俺と姫川さんの二人だけ。
元々、想定外の姫川さんの訪問。そこにくみさんまで重なると、さすがに疲労を感じずにはいられなかった。
お茶を二口くらい飲んでから、ふうっと息を吐いた。
「
「え?」
「なんだか疲れてるように見えたので……」
「あぁ、全然大丈夫です。くみさんって、こう……パワフルだから付いていくのにこっちもエネルギーを使うというか」
「そ、そうなんですね」
恐らく姫川さんも共感してくれたようだったが、気をつかってくれたことが丸わかりだった。少しの申し訳なさを感じつつ、俺は苦笑する。
ふと、テーブルの上に置かれたままのそれに目が留まった。
くみさんが持ってきた猫カフェのサービス券だ。
俺は内心で『よしっ』と、気を取り直す。
「あの、これなんですけど」
サービス券を指差して、俺は話しはじめた。
「姫川さんが良ければ、一緒に行きませんか? 来週の日曜とかにでも」
「来週の日曜日……ですか?」
姫川さんの反応が芳しくない。
よくよく考えれば、来週末からはゴールデンウィークだった。
何かしらの用事がすでに入っていてもおかしくないだろう。
「あ、予定があったりしたなら、全然違う日でも」
「そ、そういうわけでは……ないんですけど……」
「けど?」
はじめにこの券を見ていた反応とは180度違う。
何か理由があるのは明らかだ。
しかし返答は思ったよりも早く、そして良いものだった。
「いえ、大丈夫です! あの、一緒に行かせてください!」
てっきり断られる、もしくは別日でということになると考えていた。
それだけでなく、姫川さんのどこか力の入った返事に圧倒されてしまった。
「……えっと、それじゃあ来週の日曜日に」
「はい!」
何はともあれ、無事に姫川さんと猫カフェに行くことが決まった。
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