弔花

 宋聆風が師を探しに隴河ろうこうに行ったのは、この二日後のことだ。そこで彼女は、乾ききった血の海の真ん中で枯雨亡の首を抱きしめ、丸くうずくまったまま事切れている桃修苑を見つけた。しかし、近くにあるはずの枯雨亡の体はどこを探しても見当たらず、少し離れたところに例の黒い剣と乾いた血でパリパリになった黒い布切れが落ちていただけだ。彼女は仕方なく、師の亡骸とともに遺物を持って浄蓮世境じょうれんせいきょうに帰った。


 枯雨亡の首に邪気はなく、また桃修苑の腕を解いて取り出すこともできなかったため、宋聆風そうれいふうは二人をそのまま埋葬した。傍らには桃の苗木を植えた——桃の木は強力な魔除けだ。もし焔獄界の妖魔どもが枯雨亡を蘇らせようと浄蓮世境に侵入しても、肝心の肉体に近づけないのではそれも叶わぬ夢。魔剣王がいなければ、あとの妖魔は取るに足りない烏合の衆だ。

「宋聆風様」

「遺物の封印はどう?」

 背後からの呼びかけに、宋聆風は振り向くことなく答えた。

「安定しております。して、これからの作戦は」

 仙士が手短に返答する。宋聆風は桃修苑の墓を見つめたまま、初めての命令を下した。

「枯雨亡の死を徹底的に広めて。それから、各地の通路を全て封印して。……今こそ、一網打尽にするときよ」

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蓮花枯凋 故水小辰 @kotako

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