夢の跡5

 自分はこの道を知っている。

もうそれは、はっきりとした確信になっていた。

そしてどこへ向かって歩けばいいか、頭はポンコツなくせに、足は理解していた。

記憶が混ざる頻度が高くなる。

あの時何故か今よりも遥かに高い視点でこの道を見ていた気がする。


 ふと大きな肩を思い出した。

その瞬間だけ呼吸が乱れた。

何に近づこうとしているのだろう。

記憶を失ったままだって、充分生きてこれたのに。

 引き返そうか、なんて頻繁に思うようになる。

砂嵐が消える瞬間に、苦痛を感じるようになる。


 けれど、このまま自分は死んでいいのだろうか。

また自分に聞いた。

答えは頑なに、ダメだと言っていた。


 歩き続けた。

よく見覚えのある、食堂の横をぬけて。

あのガラス戸の前に立った自分を思い出した。

食堂はあの頃とは壁の色は違うものの、変わらず営業している。

何度か、誰かと来た。2人じゃない、3人で。


 頭が酷く痛い。

早く歩こう。

この先に何かあるんだ。


 彼はまた歩き出した。

そして数分も経たないうちに、彼は足に重りがついたのかと思うほど、歩くのが億劫になっていた。


 この、あと数歩先…?

分からない。が、なにか門が見える。

知っている姿とはずいぶん違う、老朽化した姿だ。

知っている姿……も分からないけれど、門がある。


 あの四合院の門についに彼はたどり着いた。

頭痛を感じながら。


 気がつくと手が震えていた。

呼吸がおかしくなっていた。

脈も飛び飛びになってるんじゃないか?なんて余計なことを思う。


 門に手をかけた。

老朽化が酷く、はげて乾いた塗装が手についた。

そのまま、押し開ける。

崩れそうな音をたてながら、扉はぎりぎりと開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る