第12話:深夜のドライブ

Aさんの趣味はドライブで、特に金曜の深夜に人のいない峠道を走るのが楽しかった。

お気に入りの曲を流しながら、山を登り、上から街を見下ろして楽しむ。そして、帰っていく。

その日もいつものようにお気に入りの曲をセットして、自宅から山を目指した。

人通りのない暗い道を登り切り、誰もいない駐車場に車を止めた。

車から降りて街を見下ろす場所に向かうと、先客がいる。

白いワンピースの女性が一人、そこから下を見下ろしていた。

あーあ、人がいるのか、と落胆し、その女性のそばまで行こうとして、気付いた。

車は一台も止まっていなかった。ふもとの町からここまで結構な距離がある。

それを、ワンピース一枚の軽装でどうやってのぼってきたのだろう。

もしかしたら彼氏とケンカしておいて行かれたのかな、とも思ったが、そういう雰囲気でもない。

なんとなく嫌な汗が背中を伝う。

Aさんが立ち尽くしていると、その女性がゆっくりと振り返ろうとしていた。

見たらまずい。

反射的にそう感じたAさんは、慌てて後ろを向き、駐車場に向かって走った。

駐車場に着くと、やはりほかに車はない。

自分の車に飛び乗り、走ってきた道を見てみるが、そこには誰もいなかった。

ほっとしつつもエンジンをかけ、峠道を下り始めた。

少し走っていると、白いものが前方に見えた。ワンピースだ、ワンピースを着た女性が、そこにいた。

ひっと悲鳴が漏れる。白いワンピースの女性の後ろ姿におびえる、成人した男。

通り過ぎる時も、過ぎてからも極力バックミラーを見ないようにして峠道を下る。

しばらく走ると、また白いワンピースの女性。

通り過ぎる、しばらく走る、白いワンピースの女性。

恐怖しかなかった。

なんとか峠を下りきり、一番近いコンビニに車を止め、中に入った。

震える体を動かし、あったかいコーヒーを買う。

ほっとして車の方を見ると、車の横に、白いワンピースの女性がいた。



Aさんは明るくなるまでコンビニの中で粘ったそうだ。

明るくなってもう一度車を見ると、そこには誰もおらず、ようやく車に乗って家まで戻ったらしい。

その後、Aさんがその山に行くことはなくなったそうだ。

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