第7話:こっくりさん

Sさんが高校生の頃の話。

吹奏楽部だったSさんは、個別練習のためにとある教室のベランダにいた。

3年1組の教室。棟の端に位置するため他の教室を気にしないでいいせいか代々クラリネットの練習場所になっていた。

時期は夏。コンクール前の忙しい時期だ。Sさんは同じ楽器の先輩と一緒に課題曲の練習をしていた。蝉の声が鬱陶しいほど、からっと晴れた日のことだった。


「きゃーっ!」


突然、女性の叫び声が聞こえた。

何事だと教室から顔を出すと、数個先の教室から女子生徒たちが飛び出してきた。

一応に床に座り込み、ガタガタ震えている。

その様子が尋常じゃなくて、Sさんは固まってしまったという。

「どうしたの!?」

先輩が彼女たちに駆け寄ったのを見て、慌ててSさんもそのあとに続いた。

「こっくりさんが、こっくりさんが」

「こっくりさん?」

Sさんもその言葉は知っていた。とはいえ、高校生になってまでそんなことをやっているとは思わずぽかんとした顔でその言葉を繰り返した。

その後、騒ぎを聞きつけた教師たちもやってきたが女子生徒たちは「こっくりさんが」としかいわず、そのまま保健室に連れていかれてしまった。



その後、先輩がくだんの女子生徒たちから聞いた話。

女子生徒たち、A、B、Cとしよう。

彼女たちは誰からともなくこっくりさんをしようということになり、誰もいない教室で三人でこっくりさんを始めたそうだ。

最初はたわいもない、だれそれの好きな人はだれか、明日の数学で当てられるのはだれか、といったことを聞いていたらしい。

吹奏楽部の練習音が聞こえる中、存分に楽しんだ後、Aが言った。

「こっくりさんこっくりさん、おかえりください」

その言葉に反応して十円玉は動き出す。


――答えはいいえ。


Aたちは焦った。こっくりさんが帰ってくれないとこの遊びを終わることができない。

最初は冗談交じりに「誰だよいいえに動かしたの」なんて言いあっていたが、お互い、誰も動かしてないことは薄々わかっていた。

それでも何度も繰り返すと、こっくりさんの答えが変わった。

はい、いいえではなく、五十音の表に向かって動き出す十円玉。

それを、声を出して追いかける3人。

「の、ろ、い、こ、ろ、す……!」

その瞬間、外で雷の音が聞こえたという。

大きな音に驚き、つい反射的に全員指を十円玉から離してしまった。

儀式が終わるまで十円玉から指を離してはいけない。離してしまえば呪われる。

そのことを知っていた3人はパニックになり、あの騒ぎにつながったそうだ。



聞いたことを教えてくれた先輩とSは首をひねった。

「あの日ってさ、晴れてたよね」

「はい、ずっと、晴れてました」


彼女たちが聞いたという雷の音が何だったのかは、分からない。

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