第6話:腕

これは怖がりのA君が話してくれた、ある合宿での話。

男ばかりの部活で、一年のA君も含め、全員が床でごろ寝状態だった。

布団じゃないので何となく眠れずに、Aくんが寝返りを打った時、床から映える腕と目が合ったのだそうだ。

最初は、そこで寝ているB先輩の寝相が独特なんだと思ったそうだ。

肘を直角に絶てて寝るなんて、と笑いそうになったそうだが、それがおかしいことに気付いた。

先輩は、後ろを向いているのだ。

おかしな寝相なんてものじゃない。人間の腕としてあり得ない角度で曲がっていることになる。

B先輩の腕ではないとすれば、では、あの腕はなんだ。

他の先輩の腕のはずがない。先輩たちも同級生も散らばっていて、あの位置に腕を置けるような場所に人はいない。

その腕が微動だにしないのも、怖かった。

ぴんと地面からまっすぐ生えているようにその腕は立っていた。

Aは心底恐ろしかった。

目をそらしたら近づいてくるんじゃないか、そんな風に考えてしまった。

それからはAと腕との忍耐勝負。じっと、瞬きも極力しないようにしながら腕を凝視するA。

腕が動いたということはなかったそうだが、目をそらすと自分の方に近づいてくるという想像が怖くて、Aは目をそらせなかった。

それは日が昇り始めるまで続いた。

アサヒが入り始めた頃、ついAはうとうととしてしまった。

すぐに気づいて、気付いたつもりでぱっと腕の方を見ると、そこにはもう何もなかったそうだ。

その後、その先輩にもAにも、特になにかおきたということはない。

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