第2話:ピアノの音
高校の頃の話。
部活で合宿があった。
別に強豪部活というわけではなく、「合宿」というものに憧れがあったからという理由だったのは、笑ってしまう話だ。
校内に合宿所があったため、どこかに泊りがけで向かうというわけでもなく、金曜日の夕方から土曜日までの、部活の延長線上の合宿だった。
それでも、夜遅くまで体育館に残ることができる、めったにない機会で楽しかったことを覚えている。
他の部員たちも浮足立っていて、顧問の先生たちからの雷もいつも以上に落ちていた。
他の部活が引き上げていく中、残っているというのは不思議な感覚で私もいつも以上に浮かれていた。
とっぷりと夜が更けて、体育館から引き上げることになった。
虫の声が聞こえる中、体育館の中ではボールを片付ける音が響く。
片づけを終え、帰り支度をしているとき、ふいに、あたりが静かになった。
その時だった、ピアノの音が、聞こえてきたのだ。
何の曲だったのかは覚えていない。
最初は合唱部など、他の部活も残っているのだと思って聞いていた。
しかし、先生たちが首をひねっている。
「今日、学校で残っているのは自分たちだけだ」とのこと。
そもそも合宿所は1か所しかなく、合宿でもなければ残ることはあり得ないほど遅い時間。
さあーっと顔から熱が引いて行った。
他の部員と顔を見合わせると、慌てて荷物を抱えて体育館を我先にと出て行った。
外に出て怖いもの見たさで音楽室のある棟を振り向いてみたが、教室があるあたりは真っ暗で人がいるようには見えなかった。
怖がりのAは泣きそうになりながらおいて行かれまいと走っている。
そんな私たちの背中に向けて、その曲はずっと流れていた。
未だに、あの時のピアノの音が何なのかわかっていない。
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