リライト

彼女が連れてきたのはボロボロの民家だった。屋根もなく、水道や電気やガスはもちろん通っていない。空を見上げると大きな音を立てて花火があがっている。


花火が止まった。その時、僕の耳に叫び声が聞こえてきた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「桐嶋、助けてくれ。頼む。」

声の主はすぐ分かった。


織田海城だった。


彼だけではなかった。僕の事を虐めた根津やあの時の他の男子もいた。

全員が鎖で繋がれていて、顔も酷く腫れていた。病院で見た阪井の顔が思い浮かぶ。


僕は思わず目を逸らした。

彼女は少し笑顔になった。


僕は聞いた。

「どうして織田達がここにいるの?」

「私が連れてきたの。」

「なんでこんな酷い事したの?」

「愛斗君が好きだから。」


話がまるで噛み合ってない。


僕は聞いた。

「僕のどこが好きなの?」


結愛は答えた。

「愛斗君の、苦しんでる顔。」


僕は思わず絶句した。


それを見て彼女は笑った。

「そうそう、こんな顔が好きなの。」






結愛以外の全員が息を飲んだ。

正気の沙汰じゃない。



「でも、僕の苦しんでる顔が見たいだけなら、どうして織田達を虐めたの?」

僕は聞いた。


「織田君達の苦しんでる顔でも満足出来る

かなと思ってやったの。でも、ダメだった。」

彼女は続けて言う。


「だから、私は愛斗君しかダメなの。」


「おい、そんなのどうでもいいから

さっさとこの鎖外せ」

根津が叫ぶ。


だが、そんな根津の声には耳を傾けず、

結愛は1人で喋りだした。

「小学校の時、愛斗君をみんなが虐めてたのを見て、最初はなんとも思わなかった。むしろ少しやり過ぎだと思うくらいだった。その日も耐えきれなくなって思わず飛び出した。でも、愛斗君の顔を見た時、私の感情は変わったの。」



「愛斗君の苦しんでる顔が、とてつもなく愛おしく思えてしまったの。」



「それから私は愛斗君の苦しんでる顔を見るために虐めるようになったの。」


そういう事か、だからあの時は笑顔で僕を見ていたのか。


「やめてくれ、俺達の苦しんでる顔を見て何にもならないんだろ。もう許してくれ。」

話を聞いていた織田達の声が響く。


しかし、結愛は構わず話を続ける。

「それから愛斗君が転校して、私は何を糧に生きたらいいのか分からなくなっていた。そんな時、高校の同じクラスに愛斗君がいたの。私はとても嬉しかった。」

「私は、今度こそは愛斗君に素直に気持ちを伝えたいと思っていたの。でも、織田君達に虐められてる愛斗君の顔を見て、また私の心が動き出した。もっと愛斗君が苦しんでる顔が見たいと思った。」


「だから、こんな事をしたんだね。」

僕は優しく言った。


「うん。」

彼女は静かに頷く。


僕には結愛の気持ちが少し分かる気がした。


「ふざけんなよ。俺はこいつの狂った恋愛ごっこのためにこんな目に遭ったっていうのかよ。桐嶋、早くこの鎖外せ、1発殴らないと気が済まねぇ。」

織田がわめいていた。


僕は地面に落ちていたナイフを手に取り、

真っ直ぐ織田達の方へ向かっていった。

まず根津の前に立つ。

「おい、何突っ立ってんだよ。さっさと外せ…」

僕は根津の腹をナイフで突き刺した。床に赤い水たまりが出来る。


結愛は恐怖に顔を歪めていた。

「え、なんで。」

彼女は言った。


僕は正直に言った。

「僕は結愛の事が好きだ。だから、これ以上結愛に苦しい思いをして欲しくないんだ。」


そう言って、僕は鎖に繋がれた人を一人一人刺していった。絶叫が小屋にこだまする。

最後に織田の前に立つ。


「おい、許してくれ。もう二度とお前の事はいじめない。それにこんな事してたら警察に捕まるぞ。だから、頼むよ。」


今は自分の事などどうでも良かった。


僕は渾身の力を込めて織田を刺した。

すると、横にいた結愛も僕と同じように織田を刺した。何度も。何度も。






まるで過去の自分を書き換えようとしているように。

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