トラウマ

今日は阪井の退院日だった。


本当は見舞いに行ってあげたかったところだったのだが、今流行りの感染症のせいで退院日まで会えなかったのだ。


久しぶりに阪井に会えるので僕は少しワクワクしていた。それと同時に、阪井に、結愛と一緒に花火大会に行けると言うと、なんて返事をするんだろうとも考えていた。


喜ぶかな、驚くかな


どんなリアクションでも面白いなと思いながら、僕は病院に向かった。


3階の病室に阪井はいた。

こんな時期なのに個室だった。

部屋は綺麗にされているが、テレビは付けっぱなしになっている。


「久しぶり。身体は大丈夫?」

僕は阪井に声をかけた。


「おう、もうすっかり大丈夫よ。」

「明日行ける?」

「もちろん、明日マジで楽しみだよ。」


遂に言う時が来たか。僕は大きく息を吸い込んで言った。


「あのさ、明日の花火羽田さんも誘ったんだけど。」

「…え」





阪井の絶句した顔が僕と目が合う。





「お前、本気で言ってんのか?」

「阪井が喜んでくれると思って。」




阪井の顔色がみるみる青ざめてくのが分かる。




「ど、どうしたの?顔色悪いよ。」

「いや、なんでもないから。」








しばらく時間が経った。

やがて、おもむろに彼が口を開いた。


「ごめん、明日やっぱり行けないわ。」


「え、なんで?だって阪井、羽田さんのこと…」

「聞かないで。」

僕が聞くより早く阪井は言った。


その後、僕達は一言も口を聞かなかった。




付けっぱなしのテレビから、夕方のニュースが流れていた。キャスターが静かに告げる。



「今日午前、遺体で発見された波多野旭はたのあさひさんは……」



僕と阪井は2人で目を見合せた。



僕は思わず言った。


「波多野さんって、あの、同じクラスの。」

「あぁ、多分、そうだろ。」


その時、ふと画面が明るくなった。


「明日、楽しみだね!」


結愛からのメッセージだった。


花火大会まであと1日


歴史は繰り返す。

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