視線の先は

あれから3日が経つが、文化祭の準備は終わらない。天野さんと波多野さんは相変わらず僕に話しかけてくれる。


こんなに色んな人と話したのなんて何年ぶりだろう。


これも全て結愛のおかげだと思った。

結愛がいたから僕はこうやって色んな人と仲良く出来ていた。


その結愛は、今日は珍しく1人で黙々と作業をしていた。2人が言うにはもう文化祭まで時間が無いから集中してやる、と言っていたそうだが、普段お喋りな結愛にしては珍しいと思った。


僕も作業をする。不意に、背中に刺すような視線を感じた。振り返ってみたがそこには何も無い。


気のせいだろうか。


作業を続けていると、また視線を感じた。


しかし振り返っても当然誰もいない。


僕は不思議に思いながらも今日一日の作業を終えた。



結愛と2人でいつもの道を帰っていく。だが、今日はいつもと違った。


「ねぁ、愛斗君の家行きたいんだけど。」

「…え?なんで?」

「え、ダメかな?」

「いや、別に良いんだけど。」

「僕の家には何も無いよ?」

「別に無くなっていいから、ね?」


結局、彼女は僕の部屋に来た。

実は女子を部屋に招くのは初めてだったりするので、僕はとても緊張していた。そんな僕を意に介さず、彼女は僕の部屋でくつろいでいた。僕は彼女の横で正座している。


そんな時、ふと彼女が1枚の写真を見つけた。


「あれ、この写真に写ってるの愛斗君?」

「そうだよ。」

「隣に写ってるのって誰なの?」

「覚えてない。」

「覚えてない訳ないでしょ、同級生だよ?」

「小三の時の記憶なんてほとんどないんだよ。」


「ふーん。」

結愛が疑いの目でこっちを見てくる。


「ってか、この時の愛斗君、可愛いね。」

僕は純粋にちょっと照れた。

彼女が続けて言う。


「なんか、愛斗君と私って、ちょっと似てるよね。」


「それって自分の事可愛いって思ってるってこと?」

「違うよ、顔の事じゃなくて、中身の部分って言うか。」

抽象的で僕にはよく分からなかった。


「具体的にどの辺が似てると思うの?」

「んー、性格って言ったらちょっと違う気もするけど、好きなものだったりとか、考えることとか、ちょっと似てない?」

「うーん、そうかな。」


正直僕はあまり似てるとは思わなかった。

しかし、結愛と似てるという事が嬉しくて、つい否定せずにいた。


「そういえば、明日阪井の退院日なんだけど、一緒に病院行く?」

「あー、ごめん。明日はどうしても外せない用事があって行けないんだ。私からはまた今度会った時に退院おめでとうって言うよ。」


「そっか、分かった。じゃあまた明後日だね。」

「うん、花火大会当日に会お。」


花火大会まであと2日。


運命は、時に残酷だ。

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