桐嶋愛斗とは

僕は夢を見ていた。

夢と言っても良いものではない。


僕は記憶の底にしまったはずの忘れたくない過去を思い出していた。





小学三年生の僕は東京都のとある小学校に通っていた。両親にも恵まれ、友達も普通にいて、充実した生活を送っていた。


だが、そんな僕の生活もある日を境に180度

変わってしまった。


僕は榎本結愛えのもとゆあという女の子に恋をしていた。

初恋だった。

僕は榎本さんに好かれようと色々頑張った。

誕生日にはペンダントをプレゼントしたりした。


「ありがとう。」

彼女が満面の笑みで言った。

僕は彼女の笑顔を見るのが好きだった。


そんなある日の放課後、僕は坂東猛ばんどうたけるという男子に呼び出された。

彼とは面識も無く、急に呼び出されて僕は正直ビックリしていた。


「よう。やっと来たか。」

坂東は言った。

ここにいるのは僕と坂東以外にもあと5人ほどいた。しかし、会った事も無いので名前は分からなかった。


「僕に何の用?」

「お前、何でここに呼ばれたか分からないのか?」

「うん、分からない。」


坂東が言った。

「お前なんかがどうして結愛と仲良くしてんだよ。身の程をわきまえろよ。」


身の程とはどういう事だろうか、別に誰と居たって良いではないか。


「一緒に居て何が悪いの?」

僕は言った。


「お前、まさか結愛の事が好きなのか?」

「な、何でそんな事を聞くんだよ。」


途端に、彼らの顔が嘲笑に転じた。

「お前、何言ってんだよ。」

「結愛がお前の事好きな訳ないだろ。」


「そんなこと、分からないじゃないか。」

僕はつい本気で言ってしまった。

どうやらそれがいけなかったらしい。


次の瞬間、僕の顔が真っ赤に染まった。

照れているのでは無いのは誰の目にも明らかだった。

彼らの攻撃は留まることを知らず、僕は何度も生と死の淵をさまよった。


その時、彼らの後ろから誰かが来たことに気づいた。後ろから来たのは、満面の笑みを浮かべた榎本さんだった。


もしかしたら僕の事を助けてくれるかもしれない。僕は淡い期待を寄せた。

しかし、そんな僕の期待はすぐに消え失せた。


彼女は満面の笑みのまま坂東らにいった。

「もっとやってよ。私もっと桐嶋君の苦しんでる顔が見たい。」


僕は思わず絶句した。


それを見て彼女がまた笑った。


「そうそう、こんな顔が見たいの。」












あれからどうやってあの場を離れられたかはよく覚えていない。だが、あの日の事は僕の脳裏にずっと深く残っていた。


次の日から僕は学校に通わず、転校することになった。

転校先で僕は心を閉ざし、人と接するのを極力避けてきた。もう二度とこんな目に遭いたく無かったからだ。

しかし、そんな僕が久々に心を開ける人と

出会った。









それが羽田さんだった。



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