約束

あれから何日が経っただろう。



どうやら辛うじて生きているようだ。



どこかから笑い声が聞こえてくる。


どうしてだろう、あんなに酷い目に遭った後なのに、不思議と笑顔になる。









彼女の声だ。










その時、世界が明るくなるのを感じた。視界が開けていく。僕の目の前には目に涙を浮かべた羽田さんの姿があった。


「良かった、また会えた。」

彼女が小さな声で言った。


そんな彼女を見て、その言葉を聞いて、

僕の視界はまた揺らいだ。それを見て彼女は静かに泣いていた。


「織田君たち、こんな酷い事をする人だとは思わなかった。ごめんね、私と一緒にいたせいで。」

彼女は言った。


僕はなるべく彼女を心配させないように、落ち着いて言った。


「大丈夫だから、羽田さんが落ち込む事じゃないよ。」


彼女は静かに、でも力強く言った。

「ねぇ、私約束する。これから私は、何があっても、どんな時でも絶対に桐嶋君を守る。」

「でも、僕の味方をしたら、あいつらに虐められるかも知れないよ。」

「それは大丈夫、私が頑張るから。」


どうして大丈夫だと言い切れるのだろう、

だが今は彼女が味方でいてくれると言ってくれたことが素直に嬉しかった。


「じゃあ、僕も何があっても君のそばにいるよ。」

僕は言った。


「ありがとう。よろしくね。」

彼女はようやく笑った。



その後は、2人で沢山話をした。

あれから1週間もずっと眠り続けていて、

その間毎日羽田さんが看病に来てくれていた事を知った時はさすがに驚いたが、僕と彼女は一日中、誰にも邪魔されず2人だけの世界を過ごした。





気づけば夕方になっていた。

夕陽が窓から差し込む。





「ねぇ、桐嶋君。」

「どうしたの?」

「1つお願いがあるんだけど。」

「なに?」

「私、桐嶋君のこと下の名前で呼んでも、

いい?」


僕は自分の顔が赤くなっていくのを自覚した。


「君がいいなら、いいよ。」

僕はうつむきながら言った。


「じゃあ、僕も羽田さんのこと、下の名前で呼んでもいいかな。」

勇気を出して言った。


「いいよ。」

彼女は笑顔でそう答えた。


「っていうか私の下の名前、ちゃんと覚えてる?笑」

「え、えーっと…」

「え、覚えてないの?なんかショックだな〜。」

「ご、ごめん。」

「仕方ないから愛斗君に教えてあげるよ。」

彼女が笑顔で言う。






「これから私の事は、って呼んでね。」






僕は思わず彼女を見た。

全身に鳥肌が立つのを自覚した。

僕の見開いた目は彼女を捉えている。



彼女の顔が赤く染まる。

それが、照れているからなのか、夕陽のせいなのか、はたまた別の何かのせいなのかは、

僕には分からなかった。




「どうしたの?顔に何かついてる?」

彼女が不思議そうに聞いてきた。

「いや、なんでもないよ。」

僕は笑って答えた。





きっと思い違いだろう。





花火大会まであと6日。

カウントダウンはすでに始まっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る