第6話 温かい朝食
朝4時20分に目覚ましアラームが鳴った。
私はスマホを持っていないので、スマホの代わりに携帯電話を使っている。
手を伸ばして、鳴った携帯電話を触れて、アラームを止めた。
「ふわぁ、もう朝か…頭が痛い…早くバイトに行かないと…」
昨夜、突然優衣さんから私の家にやってきて、彼氏と別れた祝い?で夜遅くまで酒飲みに付き合った。
無理矢理に酒を渡されてしまった。断ると、優衣さんの機嫌が悪くなってしまうので、仕方なく飲んだ。
「5時からバイトがあるので、さっさと支度しよか…」
布団を片付ける途中に、机の上に紙があると気づいた。
どれどれと紙を拾って、下記のように書いてあった。
『紗希さんへ おはよう〜よく眠れたかな?モモさんを預けてもらうね。返してほしかったら私の住所まで来てね。私の住所は… 優衣さんより』
読み終わったら、そう言えば私が起きてからモモさんを見かけないなとようやく気づいた。
「もしかしたら猫が欲しかったかな?いや、優衣さんは金に困らない。欲しいと思ったら簡単に手に入れることができるはずなのに…?」
頭を傾けた。どうしてモモさんを誘拐する必要があるのか意図を掴めなかった。
なんだか嫌な予感がする。早急に携帯電話でメッセージボックスを開いて、店員に仮病で伝え、休みをいただく。
住所を書いてある紙を持って、ジャージを着て、靴を履いて、家を出た。
優衣さんの住所は思ったより遠くはなかった。私の家の近くに住んでいる。
複数の家を一軒ずつに表札を確認した。一番向こうに中野の表札を見つけた。
玄関チャイムを鳴らす。
しかし、すぐに返事は来なかった。早朝なので、多分起きていないと思う。
玄関ドアを叩くと、近所に迷惑をかけてしまうかなと思うのでやめた。
何気なくドアノブを触れてみたら、ガチャと開けた。
「あれ?鍵を閉めてなかったかな?」
音を立てないように静かにゆっくりとドアを開けると、急に美味しそうな香りが漂ってきた。
「あぁ〜何を作ってるかな?」
目を瞑って、鼻だけクンクンと匂いを嗅ぎながら歩いていく。
気づくと、私はキッチンの所にいた。
「ようやく来たか?紗希さん」
急に優衣さんから話しかけられたので、ビクッと肩を跳ねた。
「んもう、急に話しかけないで。びっくりして心臓でも止まりそうになったわ」
「あははは、紗希さんのリアクションはわかりやすくて面白い〜」
「笑うのをやめて!そう言えば、モモさんはどこにいるの?」
「ここにいるよ」
「え?ここ?モモさんはいないけど?」
優衣さんはふるふると首を横に振って、にこやかな表情をしながら指を下に差した。
私は目で追ってみると、鍋?
「鍋?どういう意味?」
「え?分からないの?鍋の中にいるよ」
「鍋の中?は…もしかしたらモモさんを解体して、調理にした?」
「ピンポーン、正解」
ニコッと笑った。
私の絶望する顔を見れて、満足したように見えた。
膝に急に力を抜けて、尻餅をつけた。
「なんで…?」
「なんで?紗希さんはガリガリと痩せて、いつか倒れるか分からなくて不安ある。それと、紗希さんはモモさんを食べたいよね」
「え?なんで知ってた?」
「なんとなく?さっきに言ったように顔に出てるので、本当に分かりやすいわ〜。紗希さんの望み通りに叶えさせたいと思って作った」
「ダメ」
「何がダメなの?紗希さんってお腹を満たしたいよね」
「ダメだ、勝手に作ってもらうのは…困る。モモさんは私の家族だ!モモさんを失うと悲しい!許さない!」
怒りが噴き出して、優衣さんの背中にポカポカと叩いた。
「なんで殺したの!なんで殺したの!」
涙を流しながら叩き続けた。
ふるふると背中を震わせたり、微かな笑い声を聞こえたりして、叩くのを止めた。
優衣さんの様子を見て、大体察した。
「もしかしたら…嘘?」
「は〜い、そうです。冗談だよ!」
笑いを堪えられなくて笑い出した。腿にばんばんと叩きながら、襖を開くと、モモさんが出てきた。
「モモさんは生きてるよ〜。びっくりしたかな?」
涙目を見せながら紗希さんに話した。
私は何も言わずに無言で立ち、背中から暗いオーラが漏れていた。
「ごめんごめん、怒らないで〜」
謝りながら、私の腹回りに腕を回して、抱き締めた。
はぁっとため息を吐いた。
悪戯っぽいというところは優衣さんらしいなと思った。
優衣さんは落ち込んでいる人と未来が見えない人になんとか元気をつけて欲しいなと思って、びっくりさせようなことをする。
だから、優衣さんのおかげで元気になれたと多くの人から聞いた。
本当に優衣さんに憎めないなと思った。
「はい、朝ごはんを作ったけど、食べる?」
「その肉はモモさん?」
「ちが〜う。ただの鶏肉よ」
「ただの鶏肉だったか、良かった。うん、食べる」
優衣さんが作った白いご飯とさつま汁を食べた。
「あぁ…お腹と心も温まる…」
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