第5話 貧乏な私に近づいたきっかけ
テーブルの上に優衣さんが買った夜食を並んでおいた。
優衣さんはキンキンと冷えたビールのプルトップを開けて、一気に飲んだ。
「ぷぱっ!やっぱビールって美味しいなぁ!」
「ふーやれやれ、さっきビールを飲んでたけど、よく飲めるね…」
ちょっと引いた反応を表した。
優衣さんはもう身体中にアルコールを回し始めて、赤面になって私の近くに寄ってくる。
「へへへ、紗希さんもビールを飲む?」
飲め飲めのオーラが漏れて、手にしたビールを私の頬に当てた。
「いいえ、明日早く起きるのでビールを飲まないわ」
「えぇ〜真面目だなぁ。ちょっとくらいならいいよ?」
もちろん即に断った。
しかし、何度もしつこく飲んでと言われたり、私の頬に押し付け続けたりした。
もう我慢できなくて、自棄半分で優衣さんが手にしたビールを奪い取って、一気飲みをした。
「うわっ苦い…でも美味しい」
生まれて初めてビールを飲んだ紗希。
これが酒の味か…
なぜ父親が酒を好んでいるか理由は大体理解できた。
ビールを通した食道にジュワジュワと泡が弾き出して、今まで感じたことのない感覚で快楽を味わった。
未成年でも飲める炭酸飲料はあるけど、私は貧乏なので飲むことができなかった。
「あれぇ?頭がボウッとなってるけど?」
酒は初めてなので、一気にアルコールが身体中に回り始めた。
私は優衣さんと入学した日は同じけど、優衣さんの方が先に飲み始めた。
だから私と比べて、酒に慣れている。
少しだけ酔っても簡単に酔い潰れない。
私は勉強をしなればならないと思いながら、そのまま意識を切れて寝た。
赤面になる私の寝顔を見て、可愛いなと思ってスマホで写メを撮った。
「ふふふ、満足した満足した」
これを見て通りに、優衣さんは紗希さんのこと好きらしい。
友達として好きなのか、恋愛として好きなのかまだはっきりとしていない。
優衣さんは誰でもすぐに仲良くなれる。
仲良くなれると言っても、ほとんどは相手から寄ってくることが多い。
男子は自分の顔を見ないで、胸ばっかり見て話を聞いている。
女子は容姿の良さで勝手についてくる。
男女らはまるでハエのように私のところに寄ってくる。
だから私は本当の友達はいないし、自分が認めた友達は一人でもいない。
でも、転機を訪れたのは入学当初だ。
特にやりたいことを見つからなくて、何のために生きるなのか分からない。
自分の中に目標がないので、仕方なく大学に進学することにした。
入学式に参加して、周りを見てみると目標を持たずにただ時間潰しで来ているような生徒がたくさんいた。
私も周りの人と同じルートの上に歩いて生きていくだろうと思った。
周りを身晴らそうとして、目に留まったのは紗希さんだった。
場に合うようにスーツを着ている人は多い。
しかし、紗希さんはセーラー服を来ていた。
このセーラー服を見ると、色落ちをして薄くなっている。
おそらく中学生の時から使い続けてきたと思う。
周りの人と違って、紗希さんはただ遊びに来たではなく、本気に勉強に向き合おうとしている。
見た目は不幸のように見えるが、瞳を見てみると遠くて小さな星を見て、希望を持っているように見えた。
この人を見た瞬間、一生懸命に生きている!という気持ちが伝わってきた。
自分の気持ちの中に直感にこの人に話しかけてみようかと決めた。
入学式が終わった後すぐに紗希さんのところに行った。
「ねねね!私の名前は優衣ちゃんよ。あなたは?」
引いた表情で私を見つめて、何かの怪物に怯えるように震えた。
自信がなく、モゴモゴと小さな声で言った。
「…紗希さん」
「ほおほお、紗希さんか!よろしくね!」
「あ…うん、よろしく」
言った後、そそくさと私から離れて行った。
(あれ?私のところに寄ってこないね)
頭を傾けた。
今までなら私から話しかけていくと、喜んで私に近づいてくることが多かった。
でも、紗希さんの場合は違う。
容姿とか、見た目とかで判断しない人だなとわかった。
紗希さんのことをもっと知りたいと思って自分から近づいていくようになった。
音を立てないように静かに寝た紗希さんに布団をかけて、そして、テーブルの上に書いた一切れの紙を置いた。
紙を置いたらそのまま寮から出た。
一切れの紙に書いたメッセージは
『モモさんをいただきます。返して欲しいと思ったら私の家に来て』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます