第4話 空腹の限界

「あらら、汚れがついているね」


優衣さんがモモさんを持ち上げて、胴を伸ばしてぶら下がっている。


(胴を伸ばすモモさんって可愛い!!)


しかし、モモさんは暴れていない。真顔で優衣さんの顔を見つめている。


優衣さんとモモさんを見て、雷でも衝撃を受けた。


初めて会ったばっかりなのに、嫌われる微塵もなかった。


それに比べて私は何故か私から避けている。


本当は持ち上がってみたいけど、モモさんは避けてカーテンの中に隠れる。


「私が洗ってあげる〜。ピカピカになってやるよ!あなたは勉強をしててね」


フンっと鼻を鳴らして、ドン!と胸に叩いた。


(優衣さんは私に気を遣っているね。私は貧乏であることを知っている。優衣さんができる限りに手伝ってもらった。本当にありがたいなと思った)


「ありがとう、よろしくね」


教授からもらったレポートを書き始めた。


その間に私が沸かしたお湯にモモさんを入らせた。


「ちょっとと暴れないで。お水は怖くないよ」


風呂場から優衣さんと桃さんが揉めた声を聞こえた。


どんな光景だろうと、頭の中に浮かぶ。


なかなか集中できなくて、レポート書きを中断して風呂場に向かう。


「ちょっと夜遅いので静かにして…」


「あはは、ごめんごめん。どうやら水に苦手そうだ。でも入れた」


ちらっと視線をモモさんの方に向けると、気持ちよさそうにお湯に浸した。


「ぷはっ、何それまるで頭の上にタオルを乗せた父親みたいだ」


腹を抱えて笑った。


目に涙を人差し指で拭いて、瞼を開くと優衣さんは目を大きくした。


私の後ろに何を見て驚いたかな?


「ちょっとどうした?」


「いやぁ…笑うの見たことがなくて驚いちゃった」


ははは、と笑いながら後頭部に手を当てた。


不機嫌そうな顔を作って、優衣さんに向けた。


「私だって普通に笑うよ」


「ははは、わかってるよ。あなたは人間だもん」


(なんだこの言い方はまるでロボットのように見えたと聞こえるよ)


腕を組んでプイッとそっぽを向いた。


「あはは、ごめんごめん」


私を抱きしめて、頬にキスをしたり、頭を撫でたりしながら謝った。


「ちょっとやめて」


無理に優衣さんを押して、自分の体から弾き離れようとする。


「んもー素直になりなさい。あなたは可愛いのにねぇ」


「いやいや私は可愛くないわ。お世辞はいらない」


「ちが〜うもん、本当だよ」


「はいはいわかった」


私をからって楽しんでるじゃないか?と思って、心の中でイラッとした。


適当に優衣さんの話を聞き流した。


「ほら、綺麗になったよ」


優衣さんの声が聞こえて、振り向いたら、モモさんはピカピカと綺麗になった。


「わぁ、きれいになったね。ありがとう」


「お安い御用だよ。何もしないで泊まるのはちょっと失礼と思ってた」


「気を遣わなくてもいいよ。本当にありがとう」


「どういたしまして!」


ニコッと笑って、グッドサインを出した。


綺麗になったモモさんを見ると、なんだか食べたくなった。


(いやいや、何を考えているの?!こんな可愛いモモさんを食べちゃダメだ!)


(いいよ。終わり時が来る。だから終わりが来る前に食べればいいよ)


頭の中に二人が揉め事を始めた。


ああああ、と頭をぐしゃぐしゃとして、髪の毛を乱れさせた。


「どーした?あっもしかしたらお腹がすいちゃった?」


ぎくりとして、動きを止めた。


「ははは、図星を受けてるね。ほっんとうにわかりやすいだね。大丈夫よ。近くのコンビニエンスストアで夜食を買ってきたわ」


優衣さんが膨らんだビニール袋を持ち上げた。

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