第10話 九宝院椿
絶対数が少ないゆえに多くの者が実感には至っていないが、近年、先天後天にかかわらず、突然変異的に超常の力を持つようになった人間の数は、増加の一途を辿っている。
時を同じくして、異星の知的生命体が
その「突然変異的に超常の力を得る」ことと同じ系譜なのかは定かではないが、次々とオーバーテクノロジーを生み出す椿の頭脳は、尋常からは明らかに逸脱していた。
逸脱していたからこそ子供の頃――椿が小学生に上がる前にはもう、人間社会がどういうものであるのかを不幸にも理解できてしまっていた。
人間という生き物は、理解が及ばない存在を恐れ、排斥する傾向にある。
逆に好奇心を抱く者もいないわけではないが、大抵の人間は、その存在が己という物差しからかけ離れていればいるほど、好奇よりも恐怖が先に立ってしまう。
物差しがまだ完全には定まっていない子供ならば、恐怖よりも好奇が勝ることもあるだろう。
しかし、恐怖が勝ってしまった場合、理解が及ばない存在を排斥する方向に動いた際の容赦のなさは、子供は大人の比ではない。
無知と無垢を併せ持っているからこそ、子供は大人よりも残酷になれる。
事実、突然変異的に超常の力を得た者の中には、周囲の人間に恐れられ、追い詰められたせいで自ら命を絶った者もおり、その割合は大人よりも子供の方が明らかに高かった。
だから、椿は他者との間に壁をつくった。
友達なんてできなくていい。
できたところで、どうせわたしの話にはついていけない。
だからいらない。
必要ない。
そんな強気な言葉で、友達をつくることを恐れる臆病な本性を誤魔化して。
椿の学校生活は、小学校上がりたての子供にあるまじきほどに周到なものだった。
露骨な拒絶はそれこそ別の意味で排斥される恐れがあるため、つっけんどんとした物言いをすることで「ちょっと付き合いにくい子」というレッテルを自分に貼り付けた。
通っている学校が言ってしまえば金持ち向けの学校だったせいか、そこに通う子供たちはプライドが高い傾向にあり、下手に頭が良すぎることをひけらかした結果、余計な嫉妬を買う恐れがあるかもしれないと考え、学力は徹底して「平均よりも上程度」を維持した。
言葉巧みに相手に踏み込ませないことで友達にならないよう誘導しつつも、友達が全くいないと思われない程度にはクラスメイトとコミュニケーションをとることで、空気というわけではないが、いてもいなくてもクラスの雰囲気が変わることがない子という立ち位置を確立した。
元々目立つことが嫌いだったせいもあって、こんな七面倒な日々を送ることに苦を抱くことはなかった。
特段楽しくはないけど、一日一日が平和ならそれでいいと思った。
心の奥底では、一人も友達がいないことを寂しがっている自分がいることに気づかないフリをして。
そんな椿に転機をもたらしたのが、海形大地との出会いだった。
頭の良さは年相応だが、未知に対する理解が早く、自分にはない経験と感性を持ち合わせた面白い男の子だった。
そして、なぜか、どういうわけか、妙に惹かれるところがある男の子だった。
今まで散々友達をつくることから逃げてきた自分が、友達になりたいと思ってしまうほどに。
それなり以上の勇気を振り絞り、内心断られるのではないかとビクビクしながら友達になってほしいと言ってみたら、大地は驚くほどあっさりと了承してくれた。
それからの日々は、本当に、最高に、楽しかった。
椿が考え、開発した物を大地が試し、意見を聞いてから、また椿が考え……やっていることはただの
けれどそんな関係も、思いも寄らない形で変化が訪れることになった。
「なぁ、椿。たぶんオレ、オマエのこと好きだわ」
中学生になってようやく色恋というものを意識するようになったのか、それともその時見た夕陽があまりにも綺麗だったせいか、突然大地がひどく雑な告白をしてきたのだ。
わたしのことが好き?
大地が?
何の冗談だ?
そう思って誤魔化そうとしたけど誤魔化しきれず……彼が決定的な言葉を紡ぐ前に、椿は全力で逃げ出した。
顔が熱かった。
心臓がうるさかった。
頬が馬鹿みたいに緩んだ。
その時点でもうほとんど答えが出ているようなものなのに、どうしてもその答えを認めることができなかった。
できなかったから、その後しばらくの間、大地から逃げ回った。
顔を合わせるようになっても、告白については全力ではぐらかした。
けれど――
いつかは応えなければならない。
いつかは答えなければならない。
なにより、他ならぬ大地に不誠実な態度をとり続けるのは良心が咎める。
そうとわかっていてなお、大地に応える勇気も、告白に答える勇気も絞り出せなかった。
けれど、いつかは必ず……そう思っていた矢先に。
父様と、母様が、
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