東へ
第13話:遭遇
「グガガァ!」
「またゴブリンかよ、もう飽きた……ぜっ」
今日だけでも、もう三度目となる接敵である。俺はすっかり慣れたもので、まず牽制として遠距離攻撃を放った。
「グゲッ!?」
「はい、ダメー」
このゴブリンは、正面から迫る斬撃に対して、間に自分の持つ棍棒を挟むことで防御しようとした。だが、「射撃:2」による風の刃は、そんな粗末な装備で防ぎきることなどできはしない。
あっさりと棍棒は輪切りにされ、その余波がゴブリンの顔面にも傷跡を残した。血しぶきが舞い、ゴブリンの視界を奪う。
「おしまいっ、と!」
その隙に俺は、鋭く尖らした爪で奴の首根っこに切りかかった。あっさりと、奴の頭部と胴体が分断されゴブリンは絶命した。
ちなみに、左右もしくは上空にゴブリンが避けたら、俺はその着地を狙って切りかかるし、玉砕覚悟で向かってきたのならば、攻撃をよけてから追撃するだけ。つまり、ゴブリン側は完全に詰んでいるのである。
事切れたゴブリンの頭と体が、同時に地面に崩れ落ちた。
――ゴブリンを討伐‐頑丈:4を入手――
「お、久しぶりにレベルアップしたな」
「なになに? 今『スキル』っていうやつの画面が出てるの?」
俺の横からのぞき込むように、近くに隠れていたリンが出てきて俺の隣に並び立つ……というか寄りかかってきた。いつも思うが、この子は距離感が異常に近い。
一度それを言及したら泣きそうな顔をしたから、何も言わないでいるけど。
「そう、この辺りに出てる」
「へえー何も見えないけど」
魔物を倒した後に表示される画面や文字列、そしてスキルのこと。リンは全て「知らない・聞いたこともない」と答えた。
リンは今まで魔物を倒したことが無いらしく、それ故に知らないという可能性もあったが、「聞いたこともない」というのは妙な話だ。彼女の村にいる誰も魔物を倒したことがない、というようなこともないだろう。
それに、俺にははっきりと見える文字列を記す画面が、彼女の視界には映っていないという事実が何より決定的であった。これもやはり、獣人ごとの特性による違いということなのだろうか。
何はともあれ、これで俺はまた一つ強くなった。ゴブリン相手では被弾することもないため、どのぐらい打たれ強くなったのか試す機会も無いのだが。
ある日檻の中で目覚め、奴隷として買われ、魔物に襲われ退けて、同じ獣人奴隷だったリンと共に彼女の故郷を目指す旅に出てから、早3日がたった。
俺たちは森の中、整地された街道から少し離れたけもの道を、街道沿いに東へ東へと進むという、何とも中途半端な移動の仕方をしていた。
なぜこんなことをしているのかというと、街道を歩くとやたら人間の馬車とすれ違うことが多かったからだ。町と町を繋ぐ街道なのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、大体一日に5・6台もの馬車とすれ違う。
人間に目をつけられたら、何をされるか分からない。当然そのたびに隠れていたのだが、その時のリンの怯えようが半端じゃなかったのだ。
旅の初日に初めて馬車とすれ違い、慌てて茂みに隠れた時などは大変だった。
『……いや、嫌嫌嫌。もう檻は……叩かれるのは』
『リン、もう行ったから。大丈夫だ』
馬車が過ぎ去っていっても、しばらくの間リンの震えは止まらず、ずっと俺にしがみついていた。
『うっ……グスっ。たす、たすけて……ルー、そばにいて』
『どこにも行かない。約束したろ』
しばらく泣いた後は、コロッといつものリンに立ち直って元気になるのだが、馬車とすれ違うとまた逆戻りしてしまう。どうやら馬車が相当トラウマになってしまっているようだ。
いつまでもこんなことを繰り返していたら、いつまでたっても先に進めないし、リンの心も持たない。だからだいぶ進みづらくはあるが、街道沿いの森の中をかき分けながら進み、時々街道まで出て道が合っているか確かめるという、ややこしい方式をとることとなったのである。
そして森の中を進むデメリットとして――俺にとってはメリットでもあるが――魔物とやたら遭遇するということもあった。
今日までで俺の戦果としてはこんな感じである。
――ゴブリンを討伐――
――ニードルワームを討伐――
――ゴブリンを討伐――
――ビッグアントを討伐――
――ゴブリンを討伐――
――ホップスパイダーを討伐‐跳躍:1を入手――
――ゴブリンを討伐――
――ゴブリンを討伐‐頑丈:4を入手――
ゴブリンと虫ばっかりだ。
スキルもだんだん入手しづらくなってきた。恐らくだが、入手スキルが被っていて、経験値的に積み重なっているのではないかと思う。ゴブリンを討伐して「頑丈:4」のスキルが手に入ったのがいい例だ。
そして最近気づいたことだが、画面は出したいときにいつでも出すことができ、さらに画面上で現在手に入れているスキルを確認することも可能だ。
今現在のスキル一覧がこんな感じ。
頑丈:4、射撃:2、怪力:1、毒耐性:1、俊敏:1、跳躍:1
結構色々手に入れているが、正直今のところ射撃と頑丈以外のスキルはあまり効果を実感できる程には至っていない。もともと結構早く動いたり高く飛んだりといったことはできたし、俺の主攻撃は打撃でなく斬撃なので、力が上がったとかもよく分からない。毒も、目覚めた日の戦闘以来食らったことがない。
これがレベル2ともなれば違うのだろうが、なかなか該当の魔物と出くわさないのが現状だった。ずーっと街道沿いの森の中だけで進んでいるので、出会う魔物も限られている。この森の中の魔物だけでは、そのうちスキルも頭打ちだろう。
旅は順調だった。食料は、俺が狩った動物の肉に加え、リンが食べられる木の実に詳しかったのもあって全く困っていないし、魔物との戦闘に危機感を感じることもない。だがしかし、強さを求める俺にとってはどこか物足りなかった。
もっと、俺を強くしてくれるような、強くなったのを実感させてくれるような敵と戦いたい。日に日にその気持ちが高まっていくのを感じていた。
ふいに、俺の耳がピクリと反応した。
「……何か聞こえる」
「……っ、また馬車?」
常に街道の方にセンサーを張っている俺の聴覚が、何やら騒がしい音を聞きつけた。少し怯えて身を縮こまらせたリンの心配は、奇しくも当たっている。
馬の鳴き声、車輪が回る音、十中八九馬車のものだろう。いつもだったら、そのままスルーして森の中を行き、通り過ぎていくのを待つだけなのだが、今回のやつは少し様子が違っていた。
先ほどの音に加えて、喚きたてる人の声、武器と武器が衝突する音、そしてけたたましく聞こえてくる鳴き声。
『……そっ! なん……こんな時にっ』
『クワァアッ』
『ギイィ!』
『……あぁ! こっち……も!』
『ブモオオ……!』
「これは……襲われてるな」
「え!?」
聞こえてきたそれは、間違いなく戦闘の音だった。
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