第3話
〇同・火葬場前
火葬場の入り口が遠目に見える場所の壁に寄りかかっている詩月。
詩月、火葬場を見つめて
詩月「最近のって、煙突とかないのか」
そこへ詩月に近寄ってくる幸隆。
幸隆「あの」
詩月、幸隆を一瞥するも無視する。
幸隆「……間違っていたらすいません。もしかすると滝山詩月さんではないでしょうか?」
詩月、幸隆の方を見ずに
詩月「なんでそう思うんだよ」
幸隆「近所の方から聞いていましたので」
詩月「素行の悪い娘さんと仲良くしてたって?」
幸隆「いえ、そのようなことは」
幸隆、苦笑する。
詩月、そんな幸隆を見て
詩月「嘘が下手だな。あんた。思っていたのとはちょっと違うみたいだ」
幸隆、気まずそうに
幸隆「父から私のことは悪く聞いていたんですね」
詩月「いや。私の印象の話だよ。じじぃからあんたの愚痴は聞いたことない」
幸隆「じ、じじい?」
幸隆、目を丸くする。
詩月「私は不良娘ってずっと呼ばれてたよ。あいつに名前で呼ばれたことあったかな」
幸隆「信じられないですね。あんなに厳しかった父が……」
詩月「厳しかったのか? いつもへらへらしてたけど」
幸隆「母が亡くなってからは、自分から会いに行こうとはとても思えないくらいでした。なんでも勝手に決めて、それが私は嫌で、何度も会いに行こうと試みたんですが、どうしても」
詩月「……」
幸隆「囲碁をやっていたんですよね?」
詩月「ああ。興味ねぇって言ってんのに無理矢理教えられたよ」
幸隆「……そうですか、あの父が。私もやってみたいと言ったことがあったんですけど」
沈黙し合う、詩月と幸隆。
やがて、詩月が声を殺すように笑う。
詩月「なんか、同じ人間の話をしてるとは思えないな」
幸隆「そう、ですね」
詩月「じじぃとは、小学生のときから知ってるし、私の記憶では昔から変わってないと思う。それなりに知ってるつもりでいたけど、そうか、そういうこともあるんだね」
詩月、その場を去ろうとする。
幸隆「滝山さん。よろしければ納骨までご一緒しませんか。父もきっと喜びます」
詩月「冗談。そこまで踏み込む仲じゃないよ」
詩月、一度火葬場の方を見つめて
詩月「家族であろうと所詮は他人なんだね。知った気でいると、後悔するってか」
幸隆「耳が痛いです」
詩月「あんたのことじゃないよ。母親とよく喧嘩するからさ。せいぜい同じ轍はは踏まないようにする。じじぃにも仲良くしろって言われたからな」
詩月、歩き出すも振り返って
詩月「そういえば、家のどこかにじじぃの遺影あると思うよ。用意したって、ムカつく顔で言ってたから」
幸隆、悲しげな顔で
幸隆「そう、だったんですか」
詩月、そんな幸隆を見て
詩月「あー、興味あるなら、囲碁教えるよ。じじぃの下手くそな教え方でよければね」
詩月、返答を待たずに去って行く。
そんな詩月に頭を下げる幸隆。
詩月、火葬場の方を見つめて静かに微笑む。
誰も知らない、他人の心(短編) KH @haruhira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます