第2話 動き出した歯車

 あたし、空光は謎の占い師と会ってから礼とも海利とも会うこともなく舞の約束の土曜日になっちまった。やっぱ期待したあたしが馬鹿だったな。勉強もそこそこ手を付けている。受験生だしな。

 舞と合流し、合同練習を見に行くことにした。気晴らしにはちょうどいいか。


「おはようございます、随分と乗り気ではない顔をしてらっしゃいますね」


「いや、気にすんな」


 とりあえず誤魔化して舞と現地へ。夢佳と東は就職で手いっぱいって感じだろうな。


「着きましたね、もう始まっているようですよ」


「どうせお前の目的は桂と会うためだろうがな」


 そう話しながら舞は桂を探すのだった。すると舞は一人の少女を見つける。紫のロングの髪をした彼女は桂と一番親しき人物といってもいい弓道部の副部長、橘鈴奈(たちばな すずな)だ。桂と対照的に桂が物静かな美しくもかっこいいタイプなら鈴奈はどちらかというと物静かとは言えない男らしさも兼ね備える系のかっこいいタイプだ。当りも強い。そういう意味では舞は苦手とするタイプ。桂は鈴奈と話していて見つけてはいるのだが舞が鈴奈を苦手とするため迂闊に近づけないって感じか。めんどくせぇな。


「甘いぞ桂、合同練習くらいプレッシャーを与えてやらんと成長せんぞ。おいお前ら、他校も見てるんだ、ミスして恥ずかしいところを見せるなよ」


「落ち着いて取り組んだ方がいいと思いますがね鈴奈さん…いつも通り自分のペースでいいですからね」


 二人は言い争いになることはあるがなんだかんだ言って仲がいいからなぁ。

 桂はあたしたちの存在に気付いたのか話を一時中断する。


「光先輩…舞先輩?」


「おう、暇つぶしにな」


「順調ですか?」


「はい…順調ですよ、わざわざ見に来てくれたんですね」


「興味があったもので」


 あたしは舞に連れてこられたけどな。まあいいか、桂と舞も仲がいいしな。


「ここの合同学校はわたくしも知っていますよ。前の部長が宮下悠(みやした ゆう)さんでしたね」


「そうですね…宮下先輩今もうまくいっているのでしょうか」


 今回の合同で練習している元部長、つまりあたしらと同じ学年だな、そいつが宮下っていうらしいな。


「わたくしも同学年とはいえ会ってはいませんね、それなりに彼女とはうまくいっているでしょうね」


 彼女と付き合ってんのか。つーことは男の部長だな、宮下ってのは。

 すると顧問から声がかかった。確認作業か?


「舞、あたしたちは見学でもしとくか」


「ええ、そうしましょうか」


 見学席に座ろうとするとそこには身に覚えのある顔があった。また会ったな。

 オレンジのロングの髪をした一つ年下の生徒でありあたしと同じ陸上部だ。2年の中でずば抜けて高成績にもかかわらず部長でも副部長でもない彼女の名は神橋里亜(かんばし りあ)。学校内で会う時はいつも桂の横についている付き人的存在。


「あ、光先輩」


「おう、里亜じゃねぇか。お前も見に来てたのか、部活は」


「今日は休みです」


 ちなみに舞と里亜はそこまで面識がないわけではないが舞が桂と会う時はほぼ桂の隣にいる程度の面識。桂の用心棒ってところか?


「お前一人で来たのか?」


「桂さんと来ました」


 こいついつも桂にくっついてんなぁ。訳アリか?陸上部でもそうだったがこいつ自体はあまり人になじまないタイプだったが桂にだけは異常に執着してる感じはしてたな。


 舞は舞で宮下とかいうやつと面識があったらしく話していた。


「おう、お前舞じゃねぇか、久しぶりだな。俺のこと覚えてるか」


「宮下悠さんですよね?」


「副部長のことも忘れないでやってくれよ」


「上手くいっているようですね、琴吹海利(ことぶき かいり)さん」


 その言葉にあたしは舞たちを振り返った。舞と宮下とかいう男、その横に見覚えのある顔、琴吹海利だ。

 あたしはとっさに話しかける。


「おい、お前海利じゃねぇか」


「は?誰?え?あなたもしかして光?」


「あ?この光ってやつは知らないがお前ら知り合いか?」


「どういうことですか、光さん。海利さんと知り合いだったのですか?」


 宮下と舞は聞いてくる。


「おう、知り合いってことになるよな」


「そうよ、話したでしょ悠、ゲームの話」


「あのうさん臭い話の参加者だっていうのか?」


「そういうことよ」


「おやおや、これはさらに興味が湧いてきましたね、そのゲームに」


「お題が何のやつだ?お前は暴力的だったよな」


「光は無気力よ」


「なるほどなぁ、昔は無気力だったってことか」


 昔は、その言葉に昔の海利は暴力的だったことを意味する。


「昔は暴力的だったったみたいな言い方だがいつから改善したんだ?」


「暴力っつっても上には上がいるからなぁ、昔は自称一番強いを名乗ってたから俺がわからせてやっただけだ、そしたら変なもんに目覚めだした感じだな」


「宮下だったか、お前の影響で暴力的が収まった感じなんだな」


「結果から言えばそういうことだな」


 偽性格はランダムなんてものじゃなかったんだな、それにあの占い師の言う一人目、琴吹海利に会ってしまった。近いうちに月山礼とも会うかもな。

 そんな中里亜は蚊帳の外だ。真剣に見つめている、主に桂を。この5人で見学することとなった。それにしても海利が彼氏持ちだったとはな。今日は来たかいがあったかもしれねぇ。海利と出会い、後輩の里亜も聞いたところそこそことのことらしい。里亜のいうそこそこはいつも通りの意味だしな。何か騒動は起きてねぇらしいな。

 今日のこの日は収穫を得た。あたし、舞はひと段落したところで帰る予定だったが里亜はまだいるつもりらしい。


「また学校でな、里亜」


「はい、ではまた」


 といっても会う時は大抵桂の付き添いにいるから桂と会うと自動的に会うけどな。


「海利さんと知り合いだとは驚きましたよ」


「暇つぶしの予定だったが割と来た意味あったのかもな」


「まだ時間はありましたがキリが良かったですがこれからどうします?」


「なんか食ってくか」


「そうですね」


 それからあたしと舞は喫茶店で少し食べていくことに。

 舞はスイーツを、あたしも同じく舞と同じものを食うことにした。


「明日は予定ねぇのか」


「はい、ありませんよ、受験も備えていますからね、随分と余裕なようで」


「そうでもねぇぜ、勉強くらいしてるからな」


「夢佳さんたちはどうでしょうね」


「上手く行ってるんじゃねぇか?面接と学歴聞かれるだけだろ。それより今日はお開きにするか、疲れた」


「もう夕方でしたね、そうしますかね」


 あたしたちが帰ろうとしたとき里亜が突如現れた。


「光先輩」


「おう?どうした里亜、見学し終えたか」


「お時間ありますか」


「ねぇこともねぇが」


「舞先輩もですか」


「時間はありますよ、今日は」


「ちょっと付き合ってもらえませんか?夜ご飯一緒に食べましょう」


 さっきスイーツ食べたばっかなんだけどなぁ。まあ特に決めてないからいいか。


「上手い店でも知ってんのか里亜は」


 それにしても里亜から話しかけてくるあたりなにか裏があるな。里亜はこんなに積極的なやつじゃねぇ。

 店ではないらしいがそれなりに美味しいものが食べれるらしい。この道通ったことあるな。

 しばらくするとついたのが女子寮、ここは確か東と桂の二人部屋の寮だな。


「入っていいのか?」


「はい、桂さんに許可は取っているので」


 そういうことか。里亜は桂に従順だ。桂の言うことなら何でも聞く、桂の指示だろうな。舞も一緒に入っていく。東と桂の部屋にお邪魔する。東はいねぇのか。だが桂はいた。


「今日は3人とも見学に来ていただいてありがとうございます…」


「いえいえ、桂さんのためなら」


 桂と里亜は仲がいいな。


「今日はお姉ちゃんは遅帰りなので…一人で食べるのも寂しいので焼き肉とかどうですか?」


 焼肉と来たか、確かに一人で食べるのは虚しいな。


「いいんじゃねぇか」


「肉は牛肉しかないのですけどね…」


「あたしは牛が一番好きだからな、ちょうどいいな。東は豚が好きとか言ってたが姉妹分かれるもんなんだな」


「焼肉ですか、わたくしもお腹が減ってきましたね」


「舞はそういうの苦手かと思ったぜ」


 こうしてあたし、舞、桂、里亜はそれぞれ座り焼肉を食べることになった。こういう夕食も悪くねぇな。舞と桂は小食だがそれなりに満喫しているようだ。

 里亜が急にすごいことを聞き出してきた。


「光先輩と舞先輩って好きな人おられるんですか」


「いねぇよ」


「特にいませんね」


 里亜ってこんなこと聞くタイプのキャラじゃねぇんだけどな。見ないうちに性格変わったのか、誰だ、性格変えたのは。


「女の子が女の子を好きになるってどう思いますか?」


 あれか、里亜は変な本にはまっちまって影響されてるな。先輩としてどういえばいいんだ。いつの間にそっちの道に走ってたんだ。


「好きになるくらいいいんじゃねぇか」


「そうですよね」


「そ、そうだな」


 いらねぇことを言ったかもしれねぇ。里亜の真の目的はこれか、これを聞きたかったのか、わざわざあたしら呼ばなくても桂と里亜で二人で焼肉食べればいいもんな。里亜の好きそうな相手か。隣に座ってる桂しか思い浮かばねぇ、そういうことか。当の本人は気づいてないだろうが。気づいてもらえねぇってのも可哀想だな。

 桂の寮に呼び出された意図がなんとなくわかったところで食べ終わった。


「片付けるか」


「いいですよ…光先輩、舞先輩」


「私たちに任せてください」


 里亜と桂二人きりにしたらまずい気がする。


「どうしますか、光さん」


「と言われてもなぁ」


「私が勝手に呼んだんで桂さんと二人で片づけはしておきます」


 どうしても桂と二人きりになりたいらしい。結局あたしたちは後片付けせずに帰された。


「わたくしが知っている里亜さんではなかったですね」


「お前もそう思ったか」


「騒動が起きなければいいですが」


 舞もあたしと同じことを思っているらしい。


「特に桂さんは推しに弱そうですからね、もし承諾してしまった場合里亜さんはほぼ全員の嫉妬対象になるでしょうね」


 ほぼ全員、それは桂のクラスメイトだけではない。一、二、三年生全員に言えること、それほど桂は高い人望を持つ。東は姉という件で一部から嫉妬されているようだが東の性格上まったく気にしないだろう。


「変な方向に行きそうで怖いなこれ…」


「光さんの答え次第では変わっていたかもしれませんよ」


「これは月曜学校行くの怖えな」


 受験よりも里亜の身を案ずる。そうじゃなくても桂に付きっきりだからな里亜は。あとは推しに弱いであろう桂がどんな対応を取るか。あまり想像したくないな。


「つっても何人もの男を振ってきたらしいしもう決めた人がいる見てぇなうわさも聞いたし大丈夫だろ」


「里亜さんは常に桂さんに付きっきりだからこそ桂さんからしたら断わりづらくどちらかが傷つくことになるでしょうね」


「受験より心配になってきたぞこれ」


「なにか起こらないことに賭けたいですね」


 そして舞と別れる道端。


「では、また月曜日に会いましょう」


「おう、明日は大人しく勉強しとくぜ」


「お互い様ですね」


 それだけ言葉を交わし舞と別れた。

 里亜が桂にか、里亜はあんま喋らねぇタイプだしそんな堂々と出るとは思わなかったけどな。

 二人を心配しつつ自分の寮に帰宅するあたしであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る