第三話 お前まで逝くなんて
教室に戻ると久太はいなかった。早退したのだろうか。なんか悪いことをしてしまったなという罪悪感に駆られてしまい、三時間目以降の授業では一睡もせずにボーッとして過ごした。家に帰ったら、まずはメールで謝ろうと決めて、帰りのホームルームで担任の先生が入ってくるのを待っていた。しかし、時間になっても先生が来ない。五分、十分と待っても先生は来ないので、クラスがザワザワし始めた。更に十分程待って、ようやく先生が教室に入ってきた。その顔はどこか、悲壮感が滲み出ていて、いつもの優しい担任の顔ではない。クラスのみんなもそれを察したのか、教室は一瞬にして静まり返った。教卓に両手をつくと、大きく溜息を一つついて、ゆっくりとした口調で話を始めた。
「みんなに悲しいお知らせがある。先生が遅れたのは先程連絡が入ったからだ。本当に残念なことに、クラスメイトの三津谷久太くんが、四文字交差点で交通事故に遭い、搬送された病院先で息を引き取った…。
僕自身も今は頭の中が混乱していて、にわかには信じられない。みんなも辛いと思う…」
そう言うと、先生は嗚咽を漏らしながら泣き崩れた。自分も頭の中が真っ白になって、何も考えられない。つい四時間前くらいに言い争いをしていたばかりなのに。今日で、二人の大事な人たちを失ってしまった。
その時、久太が言っていた言葉を思い出した。「百鬼夜行を見たら死ぬ」その言葉が現実になってしまったのだ。あの時、言い争いをしなければ、学校にいたはずだから久太は死ななくても済んだかもしれない。そう思うと後悔してもしきれない気持ちだった。
ホームルーム終了後、担任の先生に面談部屋に案内された。
「神野。三津谷のことは辛いかもしれないが、何があったのか教えてくれないか? 」
先生は落ち着いた口調で久太との事を尋ねてきた。本来ならば久太は学校にいたはずだから、交差点にいるのがおかしいと考えて、一番仲が良かった自分に聞いてきたのだろう。
「俺のせいなんです…。あの時言い争いしなければ…」
先生は言い争いになった原因について深くは尋ねようとしなかった。ただ、言い争いをしたまま久太が学校からいなくなったということについて話した。夢で見た、「百鬼夜行」については、信憑性がなく、かえって事態をややこしくしてしまうと考えて言わなかった。
面談室をでる頃には、空は真っ赤な夕焼け色に染まっていた。帰り道、いつも通っていた四文字交差点は通りたくなかったので、少し遠回りだが迂回ルートで帰ることにした。一人で帰るのは何年ぶりだろうか。いつも隣にいた久太はいない。お節介が多かったけど、なんだかんだで一緒にいると楽しい由羅もいない。これからは毎日一人だと思うと、溜まっていた感情が溢れ出てくるように涙が出てきた。自分に出来ることはないのか、それだけをひたすら考えてながら家に帰った。
家に着いたら、いつも通り兄の仏壇の前に座った。
「なぁ、兄ちゃん。今日な久太と由羅が、そっち側の世界に旅立ったよ…。変な夢を見てから全てがおかしいんだ…。兄ちゃんは黄泉の国って所は怖くないのか? 亡くなった人間もいるし、妖怪だっているんだろ? しかも黄泉の国の王ってやつにも会ったんだ…。姿を見てないけど、とにかく近寄りがたい気配っていうか、なんというか。とにかくやばかった。でも、あれは夢じゃなくて、居眠りがトリガーになって黄泉の国に行ったんだと思う。できれば一目兄ちゃんに会いたかったよ。取り敢えず、そっちに行った二人をよろしく頼む…」
届くはずはないが、兄ちゃんの仏壇の前で、一人で語りかけていた。その日は、自分の精神状態的にも食べ物は何も喉を通りそうになかったので、夕飯はいらないとだけ母さんに伝えて、部屋に籠もった。母さんも事情は知っているのだろう。何か言ってくることはなかった。
部屋に入って机の上に置いてある、ノートパソコンを立ち上げる。検索ツールを開いて、『黄泉の国 百鬼夜行 死ぬ』と打ち込み、Enterを押した。ページが切り替わるのと同時に、幾つもの検索ワードに引っかかったサイトがピックアップされてくる。ひとまず、一番上にでてきたサイトを見るために、マウスを右クリックした。サイトに書いてある文章を一字一句丁寧に読み進めていくと、気になる一文があり、そこには、『黄泉の国は死んだら誰でも行く世界のことで、現世とつながっている』と記されていた。「現世と繋がっているということは、やはり授業中のあれは夢ではなく、本当に黄泉の国と繋がっていたということか? もし、寝ることで黄泉の国と繋がれるなら、今寝れば久太たちの国へ行けるってこと? 」そう思うや否や、パソコンの電源を落として布団の中に入り込んだ。その時、再び久太の言葉が頭の中で反芻される。「百鬼夜行をみたら死ぬーー」その言葉についても調べておかないといけないと思い、もう一度パソコンの電源をいれた。もしかしたら、今回自分が生きているのも、体が崩れなかったのも、ただ運がいいだけで、次も生きていられるという保証はない。そうなってしまえば元も子もない。それだけは回避しなくてはいけないので、今度は『百鬼夜行 死 回避方法』で検索をして一番上に出てきたサイトをクリックした。
そのサイトには、『百鬼夜行に出会ったら死んでしまう』と久太の言っていたことと同じことが記されていた。回避方法も記されていて、出会ってしまった場合は、
『カタシハヤ、エカセニクリニ、タメルサケ、テエヒ、アシエヒ、ワレシコニケリ』
と唱えれば、死を回避できるらしい。念の為、他のサイトも幾つか確認したが、どのサイトも同内容が書いてあった。明確な意味はわからないが、噛み砕くと、「君達の仲間なんだけど、遅れてきちゃった」的な意味らしい。一応回避方法は分かったが、ネットの情報だけでは怖いので明日、学校も休みということでお寺の住職さんに今日あったことも含めて相談しようと決めた。寝てしまうと、黄泉の国につながってしまう可能性もあるので、今日は寝ずに夜が明けるのを待つ。
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