第四話 約束

エナジードリンクなどの眠気覚ましを駆使しながら、漫画などを読んでいる内に夜が明けた。眠い目を擦りながら、七時頃に家をでて近くのお寺に向かう。


「おはようございます。こんな早くにどうされました? 」


お寺に入ると、すぐに修行僧と見られる方に話しかけられた。


「少し相談事がありまして…。ご住職はいらっしゃいますか? 」


「承知いたしました。こちらへ」


そう言うと、修行僧は自分をお寺の本堂の中へと案内してくれた。少し待つように言われ、五分ほどすると住職らしき人が本堂に入ってきた。


「おはようございます。何かご相談があるとお聞きしましたが? 」


僕は片眉を撫でながら、昨日起きた出来事について説明をした。説明が終わると、ご住職は眉を寄せて険しい表情をしながら語り始めた。


「ご友人様がお二人も…。この度はご愁傷さまでした…。よもつくにですか…。しかし不思議ですな、百鬼夜行をご覧になったのにも関わらず、ご存命であるなど前代未聞です。では、一つ昔話を致しましょう。

 昔、大正時代に学校で居眠りをしている生徒たちが、一斉に不可解な死を遂げるということがありました。その中で一人だけ生き延びた生徒がおり、その生徒は怯えながら語ったそうです。

 『居眠りをしてしまい、気がついたらよくわからない場所にいました。そこで僕達はクラスのみんなと会って、暗い道を暗中模索しながら歩いたのです。すると前方からお祭りのような音が聞こえてきて、僕達はワクワクしながら向かっていきました。近づいていくと、徐々に道が明るくなってきて、お神輿の様な物を担いでこちらに向かってくる集団がぼんやりと見えます。更に近づいていくと、距離は急に縮まり集団の全貌がはっきりと見えるようになり、僕達は突然硬直しました。見えたのは、この世のものとは思えない醜い姿をした妖怪たちや亡霊でした。同級生が大きな悲鳴をあげたので、その方向をみると、沿道を照らしていた、街灯だと思っていたものは。ヒトダマや無数の提灯だったのです。次の瞬間、僕達は一斉に走り始め、鐘の音と共に目が覚めると教室に戻っていました。居眠りをしていた同級生は、みんな同じ夢をみてて、その日の内に死んでしまいました』と。君の話とほぼ一致しているでしょう。百鬼夜行を見てしまったら死んだしまうのも本当ですし、対処法としてのまじないも君が調べてきたもので間違いないでしょう。しかし、生者がよもつくにに行って、体の崩壊等がおこらずにいれたということは不思議です。なので、君は何やら特別な体質か、血筋を持っているのかもしれないですね。しかし…もう一度あちらの世界に行かれるのは、私としてもおすすめはできません…。あまりにもリスクが大きすぎます」


あまりにも住職が話す内容が、昨日の出来事と一致していたので驚いた。


「リスクは大きいですか…。でもあの二人を取り戻すためには自分が行かないと! 」


自分の中では、話を聞いた後ももう一度黄泉の国へ行くという気持ちは変わらなかった。


「左様ですか…。しかし、連れ戻すことは難しいですよ。元来人間はいずれ召されるもの。人間に限らず、この世に生を受けたものは動物にしても、何にしても同じなのです。君がいまから行おうとしていることは、その倫理に真っ向から歯向かう行為です。特に、女の子の方は黄泉の国の王と契約を交わしてしまっているので難しいでしょう。男の子の方は、閻魔大王に掛け合えるのならば可能性は限りなく低いですが、希望はあります。百鬼夜行を見て死んでしまうのは、天寿を全うし終わってないわけですから…。されども、もし君のご友人達が黄泉の国の食事をとっていたら、引き戻すことはできないでしょう…。生者と違い、死者というのは、食べなくても大丈夫なのです。だからまだ希望はあります。どうしても黄泉の国へ行かれる場合、お約束して頂きたいことがあります」


「なんでしょうか? 」


「一つ目に、むこうの食べ物は絶対に食べないで下さい。黄泉の食事は、ものすごく食欲を誘うようなものばかりです。先程も申しましたが、死者は食べなくても大丈夫ですが君は違います。逝く前に、お腹は満たしてから逝ってください。二つ目に、黄泉の国へ逝った日には必ずここに来てください。悪い物があなたに憑いてくるかもしれないので、その様子を確認させてください」


確かにそうしてもらったほうが、自分としても安心だ。住職と約束を交わしてお寺を後にした。家に帰ると恐らく学校での居眠りが、黄泉の国へ繋がっているとのことなので、安心して眠りについた。


 目覚めたのは、夕方の四時だった。案の定、変な夢を見ることもなく目覚めることができた。夕食やお風呂以外の時間はインターネットで、ひたすら黄泉の国のことを調べる。生活リズムを戻すためにも、日付が変わる前には布団に入って目を瞑っていた。昼夜逆転してしまっていたので、中々寝付けなかったが一時間ほどすると瞼が重くなってきて眠りに落ちた。

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