第二話 行かないで
再び目覚めると、そこは普段の教室だった。丁度、一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、十分間の休みに入った。冷や汗をかいて、妙に体が怠い。夢の中の話ではあったが、由羅のことが心配になって隣のクラスに尋ねた。
「おーい、由羅いるか? 」
いつもの感じで隣のクラスに入ると、周りのみんなが不思議そうに見てくる。窓側の一番後ろにある、由羅の席にいくと、驚いたことにそこには席がなかった。
「どういうことだ? 由羅の席は? 由羅はどこにいる」
そう尋ねると、クラスは更にざわめき始める。
「善五郎、寝ぼけてんのか? そんな奴の席はないし、聞いたこともない。夢でもみてんだろ」
隣のクラスの桑井が、耳を疑うようなことを口にして、僕は唖然とした。昨日まで確かにいたはずの由羅がいないなんて信じられない。まだ夢の中にいるのか?そう思い、頬を力強く捻るがどうやら、夢ではないらしい。
「善五郎? 何してんだ? 次の授業始まるぞ」
無理矢理引き戻すように、久太が服の首元を掴んで隣のクラスを後にした。
「おい、何するんだよ。離せ」
そう言う僕を無視して、久太は教室の前を通り過ぎ、屋上まで進んでいった。
「どういうことだ、お前までおかしくなってんのか? 」
屋上に着くや、すぐに久太に聞いた。久太は声を震わしながら話し始める。
「っていうことは、ぜ、善五郎もあの夢を見たんだな…? 」
「あぁ。今もまだ、頭の中の整理がついてない。よくわかんねぇ、幽霊とか妖怪が沢山いた。そこで、由羅が連れて行かれちまった…。久太も同じ夢を見たのか? 」
あの時の無力感が再び自分の体に襲いかかる。
「じ、実は俺も見たんだ。今でも体に亀裂が入る感じが残ってる…。そんな時に由羅がヤバそうなやつに連れて行かれてた。俺は怖くて仕方がなかったんだ…。結局あの夢は夢じゃなかったんだよな? 現に由羅はいなかっただろう? 」
久太は、今にも泣き出しそうな顔をしながら、座り込んでしまった。
「どうなってるんだろうな。夢が現実って意味が分からない…。夢は夢だから、夢なんだろ。でも、多分あれは、百鬼夜行だ。それに出くわしたわけだ」
「百鬼夜行って、見た人死ぬやつじゃん…。俺、死ぬのかよ…」
「いや、今生きてんなら大丈夫だと思うけど…。でも不思議なのが、由羅も久太も体に亀裂が入り始めていたのに、僕の体にはなんの変化もなかった」
やっぱり、ここが一番不思議だった。他の二人は体に亀裂が入っていたのに、自分にはなんの異常もなかった。ただ運が良かったからだろうか、それとも時間差があるのか? この夢の謎は深まっていくばかりだった。
「なぁ、久太。他に居眠りをしていた人の中で、同じ夢を見た人いないのかな? 」
暫くして、ボーッとしている久太に尋ねた。
「いや……。分からない……」
久太は気の抜けたような、曖昧な感じの返答しかしなかった。
「おい、そんなに落ち込んでいる場合じゃないだろ! すぐにでも、何か由羅を救い出せる方法を探さないと! 」
由羅を助けないと。という焦りから、思わず声を荒げてしまった。久太は一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに怒りを露わにした顔つきになって、
「どうやって救い出すんだよ! 何か方法でもあんのか? 自分だって死ぬかもしれない。そんな時に他人の心配なんてしてられるかよ。もしかしたら、由羅なんて元々いなかったんじゃないのか? 周りがおかしいんじゃなくて、俺らがおかしいんじゃねぇの? 」
そこでやめておけばよかったものの、躍起になって自分も言い返してしまう。
「なんだよそれ! 昨日まで由羅いたじゃねぇかよ! 僕達のこと追いかけてただろ? そんなことも忘れたのか? もういい、お前みたいな腰抜けは何処かいけ」
「そうか、お前との縁も此処までだな。じゃあな」
そう言うと久太は、走って屋上を去っていった。久太の言いたいことも痛いほど分かる。現実から目を背けたいのも分かっている。しかし、由羅を助けたいという気持ちも大きい。幾つかの気持ちが心のなかで交錯している。久太が去ってから三十分ほどして、二時間目の授業が終わったので教室に戻ることにした。
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