第4話
「ん?ああ、悪い。ちょっと考え事してた」
「大丈夫ですか?無理しないでくださいね!」
うん、茜さんはやっぱりやさしいな。
「茜さん、心配してくれてありがとう」
「いえいえ」
そんなやり取りをしていると、彩花さんが少しどこか焦った表情で口を開いた。
「お取込み中のところ申し訳ないけれど早く行かないと他の班に負けてしまうわ。私負けることは嫌いなの。話が済んだのなら早く行きましょう」
周りを見渡してみると僕たち以外誰もいない。急がなければ負けてしまうことは確実だろう。
「そうだな、ごめん。急ごうか」
僕たちは教室をあとにした。
教室を出ると僕たちは初めに向かう場所について話しあっていた。
「まずは化学室で行くってことで大丈夫か?」
ここの教室から一番近いのは化学室だから、効率を考えるのであれば化学室に行くのがベストだろう。
「うん、そうだね!ここから一番近いですもんね!」
「あたしもそう思う」
二人とも考えが同じみたいでよかった。あとは彩花さんの意見だけだけど、、、
「効率を考えるとまず化学室に向かうっていう考えになるのは分かるわ。でも、今、化学室に向かったら時間の無駄になるだけじゃないかしら」
彩花さんはキッパリという。
「え、なんで?」
茜さんは不思議そうに尋ねる。茜さんが質問したくなる理由は分かる。
「もしかして、『まず化学室に向かう』っていう考えを持った人たちがたくさんいるかもしれないからか?」
彩花さんはこくりと頷く。
「ええ、それもあるわ。でも、もう一つ理由がある」
理由?ほかにも同じことを考えてる人がいること以外に何があるのだろう。
「その理由って一体何だ?」
「この高校は理系に特化していることを忘れたのかしら?化学室へ行った人たちあまりにも出て来るのが遅いとおもわない?」
言われてみれば、スタンプ押してもらって問題を解くことにそんなに時間かかるだろうか。僕たちの教室から化学は廊下に出てみれば人の出入りくらいは分かるくらいの距離だ。ちょうど僕たちが廊下に出たときに、三つの班が入っていったのを見た。
「三つのグループが入って行ってからおそらく六、七分は経ってるな」
「ええ。」
となると、ここでわかることは教室内に入るとスタンプは押してもらえるがその後の渡される問題は『その場で解かなければならない』つまり『解けるまで出られない』ということだ。
「彩花さんの言いたいことは何となくだけど分かった。でも、その分早く問題が解ければいいんじゃないか?」
解けるまで教室にいなきゃいけないとしても別に大した問題ではないだろう。理系に特化した学校だとしても一年の初めの頃に出せる問題なんてたかが知れている。
「無理よ」
彩花は顔を赤くして強く言った。そして複雑そうな表情で何かを続けて言おうとしてる。
「私、理科が苦手なの」
今ものすごいことを口にしていなかったか?
「え、理科苦手なのか」
「悪いかしら」
「いや悪くないです」
こ、こえー、そんなに本気で睨んでこなくても。
「それに理科が苦手っていうのは私だけじゃないわ」
「へ? 」
何を言っているのだろうか。理系に特化した学校なのに理科ができないってどういうことだ。
「そうよね、茜? 」
え、まさかそんなことがあるわけ―
「えへへ」
そのまさかだった。え、なんでこの子たちはこの学校にいるんだ?カンニングしたのか?
「そういうわけだから、先に別の場所―一番離れている英語科室から行きましょう。それと話しかけないでって言ったわよね。気安く話しかけないでくれるかしら」
彩花はそう言うとすぐに英語科室へ向かって駆け出した。
「今更!?」
残された僕たちも彩花の後を追った。―走り出す時に彩花が少し笑顔だったことは秘密だ。
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