第3話

○赤山フラワー店前

 道路沿いの一画の花屋。店頭には売り物の花がたくさん並んでいる。そこで花の手

 入れをしている水本由香里(28)。

 そこへやってくる岡瀬。


岡瀬「そういえば、花には詳しかったな」


 由香里、岡瀬を見る。


由香里「……あきくん」

   

 困ったように笑いかける由香里。


○公園

 誰もいない小さな公園。ベンチに並んで座っている岡瀬と由香里。手にはそれぞれ

 缶コーヒーが握られている。


由香里「会うのは三年ぶりだね」


岡瀬「ああ。確かそのくらいだ」


由香里「嘘つき。五年経ってますけど」


 岡瀬、飲もうとしたコーヒーの手を止める。


由香里「テキトーな所は相変わらずだね。私の家庭教師してた頃から全然変わらない」


岡瀬「手紙のやりとりはしてたから、そんな気がしなかっただけだ」

 

 沈黙する、一同。


由香里「……津田さんから聞いたよ。お父さんのことが原因ならやめてほしいな」


岡瀬「俺がやりたいからやってるだけだ」


由香里「冤罪だったよ、お父さんは」


岡瀬「世間はそう認めていない。一度ついた犯罪者のイメージは消えないんだ。罪は償うべきだ、なんでも無罪にしようっていうんじゃない。でも、同じ人間だってことを知ってもらわないとだめだ。世の中は厳罰厳罰だ。そしてそれはその家族にまで」


由香里「……ねぇあきくん。どうして言ってくれないの。結婚おめでとうって」


岡瀬「……」


由香里「相手のご家族は、全部知ったうえで結婚してくれるんだ。当時は、私も辛かったし世の中を呪ったよ。昔から好きだった家庭教師の先生とも……離ればなれになった。でも私、今は幸せ」


 黙って聞いている岡瀬。


由香里「人を救いたいって、だから弁護士になるってずっと言ってたよね。私に勉強教えるのそっちのけでさ。望んだ職業ついたんだよね。なのにあきくんはいつも辛そう。手紙でもそう感じてた」


岡瀬「……由香里、俺は」


由香里「自分が救われたいだけの人には、誰も救えない、って私は思うな」


 由香里、立ち上がり去って行く。

 岡瀬、呼び止めようとするも声は出ない。

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誰のための正義(短編) KH @haruhira

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