第2話

○横浜地方裁判所前

 険しい表情で出てくる岡瀬。


津田「相変わらずだな、岡瀬」

 

 岡瀬が出てくるのを待っていた津田。岡瀬、津田を見て


岡瀬「……来てたのか」


津田「けっこう来てるよ。声かけないだけで」


岡瀬「……」


 津田、黙る岡瀬に苦笑する。


津田「もういいだろ。うちの事務所戻ってこいよ。坂前先生もいつでも来いって言ってくれてるんだ」


岡瀬「俺みたいな落ちこぼれをか」


津田「皮肉だな。成績は一度も勝てなかった」


岡瀬「論文のテーマが有利だっただけだ。民事訴訟では津田には敵わないと思ったよ」


 懐かしむように笑う、岡瀬と津田。

 津田、言いにくそうに


津田「いまのお前の戦い方は結局誰のためにもなってないと思うよ」


 岡瀬、遠くを見つめて


岡瀬「……日本の犯罪率、その半分が再犯だ。お前だってわかってるだろ。刑務所にぶち込めばそれで終わりじゃない。そいつの人生は続くんだ。冤罪の可能性だってある」


津田「被害者は、納得しないな」


岡瀬「わかってる。だから俺は事務所を出たんだ。あそこは被害者に寄り添い過ぎている。加害者だって人間だ……家族だって、いるんだ」

   

 拳を握りしめる、岡瀬。

 津田、難しい表情で内ポケットから封筒を取り出し、岡瀬に渡す。


津田「この前、水本さんが事務所に来たよ。お前、やめたってこと言ってなかったのか」


岡瀬「……あぁ忙しくてな」


津田「結婚するってよ」


 岡瀬、はっとする。受け取った封筒が結婚式の招待状であることに気付く。


津田「その裏に書いてある花屋で働いてるんだって。未来の旦那さんの実家らしい。会いたがってたから、行ってやりなよ」


 岡瀬、招待状を一瞥してから眉を寄せながら津田を見る。

 津田、察して肩をすくめる。


津田「大体の話は聞いたし、お前の現状も話しちゃった。それに水本って名前は弁護士やってればピンときたしな」


 岡瀬、ため息をついて


津田「昔からお前の極端な加害者視点は不思議だと思ってたけど、知り合いだったのか」


岡瀬「……」


 岡瀬、津田に招待状を見せるように挙げて礼を示すと、その場を去る。


津田「待ってるからな。いつでも電話してくれよ」

  

 岡瀬、何も応えずに去って行く。

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