第3話

〇喫茶店(朝)

 深呼吸をしてからコーヒーを飲む礼。

 おもむろに立ち上がり、自分のテーブル席の二つ後ろへと向かう。

 そこにはサングラスとマスクをつけた落合が座っている。礼がきたことでメニュー

 表で顔を隠す、落合。


礼「お前は何をしてるんだ」


 落合、声を裏返して


落合「ど、どちらさまですかぁ。人違いじゃないですかぁ」

   

 礼、落合の頭を叩いて胸ぐらを掴み上げる。


礼「今日は面白い声してるじゃないか。よし、治してやるから歯を食いしばれ」


落合「あぁ、ごめんなさいごめんなさい! ストーカーみたいなことしてごめんなさい!」


礼「なんで場所、知ってるのよ」


落合「昨日、酔った勢いで教えてくれました」


礼「なにやってんだよ、私」


 礼、悶えながら落合の胸ぐらを揺さぶり続けている。

 そこへ近づいてくる店員。


店員「あのお客様……」


礼「あぁ、すみませんうるさくして。すぐに」


店員「お連れ様が来られていますが」


礼「え?」


 礼、店員の後ろを見るが誰もいない。目線を下に移すとそこにはリュックを背負った岸野奏太(8)が立っている。


奏太「永芳礼、さんですか?」


礼「……そうだけど」


 見つめ合う礼と奏太。

 落合、首を振られすぎて意識がなくなりかけている。


〇同(朝)

 テーブル席で向かい合っている礼と奏太。礼の隣りには落合が座っている。

 礼、落合に向かって小声で


礼「なんでしれっと混ざってんのよ」


落合「あはは、なんとなく」


 落合、オレンジジュースを飲んでいる奏太を一瞥して


落合「お兄さんは、ベンジャミンバトンとかなんですかね」


礼「次ふざけたこと言ったら、営業のノルマ手伝ってやらないからね」


落合「すみません、ごめんなさい」


 礼、ため息をつきながら奏太を見つめる。その姿に懐かしさを覚えている。


礼「……」

 

 奏太と目が合う礼。

 礼、慌てながらも


礼「あ、えっとあなたは」


奏太「岸野奏太です。父は涼介で、僕はあなたの甥です」


礼「あー……はっきり言っちゃうのね」


 礼、複雑な顔。


落合「嘘じゃないですか? 新手の詐欺かも」


奏太「そんなんじゃないです。ていうか、あなたは誰ですか」


落合「なにをぉ、このガキンちょめ、僕はな」


礼「(遮って)信じるよ」


 礼、奏太を見つめて懐かしむように


礼「面影がある。よく似てるよ」


落合「……先輩」


礼「それで? 兄さんはどこにいるの?」


奏太「父に会いたかったら、僕を匿ってください。追われてるんです」


 ポカンとしている落合。

 礼、引き攣った笑み浮かべて


礼「…………なんだって?」


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面影(短編) KH @haruhira

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