第2話

〇居酒屋・外観(夜)

 繁華街の一画。店前の通りには多くのサラリーマンや若者が行き交っている。


〇同・店内(夜)

 騒がしい店内。


落合の声「お兄さんから連絡あったんですかっ!」

 テーブル席で向かい合っている礼と落合賢一(23)。

 落合、興奮したように立ち上がって礼を見つめている。

 落合の大声に周りの客が驚いたように礼たちを見ている。


礼「声がデカいんだよ」


 礼、落合の頭を叩いて周りの客に愛想笑いで一礼する。


落合「すみません。でも何年も音信不通だって言ってましたよね」


礼「実に八年ぶりだな」

 

 礼、ハンドバックから封筒を取り出して、落合に見せる。


礼「明日の朝、十時に会う予定」


落合「読ませてくださいっ」


 落合、手紙を取ろうとするが、礼はそれをさらりと躱す。


礼「人宛の手紙を許可なしに読もうとするな」


落合「でも気になって」


 礼の睨みにたじろぐ落合。


落合「すみません……」


礼「まったくいい大人のくせに、マナーとか距離感とかへったくそよね。今の若い子って」


落合「課長にもよく言われます」


礼「まぁ若いで括るのは良くないんだろうけど、うちの社員はそういうの多いから無理ないわ。悔しかったら結果で示すことね」


落合「……はい」


 ビールジョッキに口を付ける礼。

 若干の沈黙。


落合「いやっ! そんな話はどうでもよくてっ!」


礼「どうでもよくない」


落合「うっ、はい。どうでもよくはないですけど……今はそのお兄さんの話ですよ」


礼「つーか、私、兄さんの話あんたにしたんだっけ?」


落合「軽くですけど、しましたよ。けっこう最初の頃に」


礼「あーあまりにも話すことなかったからしたんだっけか」


 落合、落ち込んだように肩を落とす。


落合「確か……血繋がってないんでしたよね」


礼「母親の再婚の連れ子だったからね」

   

 礼、ビールを飲みながら斜め前のテーブル席を見つめる。

 その席では女二人と子ども三人がいる。

 落合、礼の目線を追って同じ方向を見る。

 子どもは男児二人と女児一人で楽しそうにはしゃいでいる。


落合「女の子が妹っぽいですね」


礼「あんな感じが兄弟っていうなら、私達は兄弟ではなかったかもな」


落合「そうなんですか?」


礼「私が八歳のときに、半年だけ一緒に暮らしただけだったのよ。歳が離れてて、兄さんは高校生だったからね、よく手を繋いで遊んでくれた」

   

 懐かしむように微笑む礼。

 落合、複雑そうに


落合「……好きだったんですか?」


 礼、思案してから


礼「どうだろうね。初恋かと言われればイエスだけど、男として見れるかって言われると迷う。兄さんとの思い出は、ロマンチックが過ぎてるから」


落合「文通してたんですよね」


礼「二十歳くらいまでね。子どもの頃は母さんに隠れて手紙出すの大変だったわよ。切手代も子どもには大金だし、手紙受け取るために学校終わったらすぐに帰らなきゃだし」


落合「お母さんに知られたらまずかったんですか……」


 礼、苦笑して


礼「あの人は、昔の男関係出すとヒステリックになるからねぇ」


落合「……」


礼「まぁ、なぜだか今になって手紙が来たわけよ。母さん追い出して、今のマンションに留まってた甲斐があったってもんね。兄さんは、今年で36歳になるのかぁ、楽しみ」


 落合、不満そうに


落合「もしかして今日飲みに誘ってくれたの、明日の不安とか高揚感とか紛らわせるためだったんですか?」


礼「お、めずらしく冴えてるね。仕事でもそのくらいの想像力働かしてほしいものです」


 落合、カルピスサワーを一気飲みする。

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