第3話
○同・教室・中(夕)
誰もいない教室。深刻な表情で教壇の前に立っている藤二。
ひよりの声「その様子だと、誰も教えてくれなかったみたいですね」
藤二、教室の入り口に眼を向けて。
藤二「まだ帰ってなかったのかい」
ひより「挨拶しないとって思って。まさか先生にジョブチェンジしてるなんて思わなかったです」
ひより、教壇の近くの机の上に座る。
ひより「まぁ、私のせいか」
藤二「違うよ、僕が選んだことだ。君が気にすることじゃない。今はどうしてる?」
ひより「児童施設で。みんな優しいですよ。親と違ってね」
藤二、苦笑する。
ひより「偶然の再会は嬉しいですけど。またえらいところに来ましたね」
藤二「……あれは、どういうことなんだ」
ひより「私が知ってるのは、高木南は四年の時に行方不明になってるってことです。いまだに生死不明。私は去年、ここに転校してきた身ですから顔も知りませんけど」
藤二「行方不明って……」
ひより「うちは四、五、六年でクラス替えありませんから。それ以来、このクラスでは高木南はいるものとして扱ってるみたいです」
藤二「いるものとしてか。なるほど」
ひより「ちょっとね、気持ち悪いんですよ。クラスの皆、悪い奴はいないし仲も良いんですけど、高木南の名前を出すとまるで別人になるんです」
○(回想)同・教室
真顔で藤二を見つめる生徒たち
○同・教室・中(夕)
藤二、眉間に皺をよせている。
ひより「面白いのは、話を合わせないと消されちゃうってところですね」
藤二「消される? 物騒だね」
ひより「そのままの意味ですよ。実際、それをしなかった四年と五年の担任の先生は消息不明になりました」
藤二「まさか」
ひよりの真剣な顔に、言葉を飲み込む藤二。
ひより「先生たちは怖がって誰も担任なんてしたくなかった。体よく新米教師に押しつけたってわけ。本当に大人って汚い」
ひより、立ち上がって
ひより「どうでもいいと思ってたけど、私が世界で唯一信頼してる大人のピンチならそうもいかないかな。この謎、一緒に解決しませんか?」
藤二「……その話が本当なら、今朝僕は君に助けられたってことか」
ひより、肩をすくめる。
ひより「助けますよ、何度でも。私がいるから、もう大丈夫です」
ひより、手を差し出す。
藤二、苦笑してその手を握る。
憑依教室(短編) KH @haruhira
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