第2話

○T「五年後」


○伏島小学校・外観(朝)

 校門前。桜の木が綺麗に咲いている。


○同・校長室・中(朝)

 ソファーに向かい合って座っている藤二春哉(30)と秋葉功一(56)。


藤二「今日からよろしくお願いします」


秋葉「こちらこそ。元警察官という経歴。是非、教師に役立ててください」


 藤二、苦笑しながら


藤二「役立つことがあるとは思えませんが」


秋葉「そんなことありません。あなたのしたことは立派だったと私は思いますよ」

  

 藤二、苦笑して


藤二「懲戒免職、ですけれど」


秋葉「でも後悔はしていないのでしょう?」


 藤二、自分の掌を見つめて握りしめる。


藤二「はい。そうしなければ助けられない命がありましたから。自分の首など安いものです」


 秋葉、満足そうに頷いてから手元のファイルを手に取って藤二に渡す。


秋葉「藤二先生には六年二組の担任をお任せします」


藤二「勉強させていただきます……え?」


 顔を見合わせる藤二と秋葉。


藤二「担任、ですか?」


秋葉「ええ、お願いします」


 藤二、渡されたファイルがクラス名簿だと気付く。


藤二「しかし、校長先生。自分はまだ新米で」


秋葉「大丈夫です。あなたなら」


 断言する秋葉に唖然とする藤二。



○同・教室前・中(朝)

 表札には六年二組。扉の前で深呼吸をする藤二。


藤二「問題のあるクラス、ということかな……望むところだ」

 

 切り替えるように引き戸を開ける藤二。


○同・教室・中(朝)

 騒々しい室内に、入ってくる藤二。


藤二「席に座ってくださーい」


 自分の席に座り始める生徒たち。

 藤二、教壇の前に立ち生徒を見渡す。


藤二「えーと、今日から君たちの担任となった藤二春哉です。一年間、よろしくお願いします」


 一番前の席に座る相羽風騎(11)が手を挙げる。


相羽「先生! 今年から来た人ですか?」


藤二「ああ。そうです。先生としては新米だけどよろしく」


相羽「いいねぇ、よろしくしてやろうぜ、みんな」


 笑い声と拍手で教室が包まれる。

 藤二、ほっとしたように


藤二「ありがとう。じゃあ出席をとります。顔と名前を一致させたいから今日だけ呼ばれたら手を挙げてください。じゃあ、一番、相羽風騎さん」


相羽「おいっす!」


   手を挙げる相羽。


藤二「元気いいな」


相羽「俺、ずっと出席番号一番なんだぜ」


生徒A「威張れることじゃないだろ」


生徒B「そうだそうだ」


 笑い声に包まれる室内。

 藤二が名前を呼び、手を挙げ返事をする生徒。


藤二「えーと次は18番。高木南さん」


 シンと静まり返る教室。


藤二「高木さん、高木南さん?」

 

 藤二、顔を上げるも生徒達は誰も喋らなくなり、真顔で藤二をジッと見つめてい

 る。

 藤二、突然の空気の変化に戸惑う。


相羽「先生、南はもう返事したぜ?」


 藤二、我に返って


藤二「あ、そうだったのか、すまない。聞き逃したな。もう一回だけ頼む。高木南さん」

   

 静まる教室。返事はない。

 怪訝な表情の藤二。


相羽「先生」


 相羽を見る、藤二。


相羽「返事してるのに何回も呼ぶなんて、可哀想だぜ」


藤二「……おかしいな。先生には聞こえ」


ひよりの声「(遮って)先生、はやく進めてください。次は私です」


 藤二、声の方を見つめて目を瞠る。そこには憮然とした表情で席についている手塚

 ひより(11)


○(回想)細山交番前(深夜)

 ひより、泣きながら

ひより「助けて、ください」


○元の伏島小学校・教室・中(朝)

 藤二、クラス名簿を見ずに


藤二「手塚、ひよりさん」


ひより「はい」


 ひより、藤二から眼を逸らして手を挙げながら返事をする。

 教室の生徒たちは話し始めて元の喧騒に戻る。


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