第3話

〇由良家・外観(夜)

 一般的な一軒家。


〇同・玄関(夜)

 帰ってくる光一。


光一「ただいまぁ」

 

 光一、玄関にある見慣れないスポーツシューズに目がとまる。

 家に上がる光一。


〇同・リビング(夜)

 入ってくる光一。

 リビングのソファーには後藤俊樹(24)が座っている。


後藤「よう、光一。久しぶりだな」


 光一、嬉々とした顔で


光一「後藤さんっ。いつ戻ったんですか? 中国遠征はどうでした? やっぱり上手いやつは」


後藤「落ち着け落ち着け」


 光一、後藤の向かいのソファーに座る。


後藤「まずはお前のことだ。地元の深山高校行くんだってな、公立の」


光一「はい。そこのバド部けっこう強いんです。去年は団体戦県大会ベスト8までいったんですよ」


 後藤、苦笑して


後藤「……光一。今度、国が率先して作ったナショナルチームが発足するんだ。中高生限定のな。俺はコーチ兼選手として特別に参加することになった」


光一「マジですか!」


後藤「ああ。バドはいま波に乗ってるからな。オリンピックの金メダル競技として国も支援を惜しんでない。他のコーチもベテラン揃いだ」


光一「あの、それって」


後藤「ああ、俺がお前を推薦しておいた。まぁそれ以前に名前は挙がってたけどな。業界じゃお前、有名人だぜ」


 光一、喜びを噛み締めるように拳を握りしめる。


後藤「ただ、チームに入るとなると部活はやめておけ」


光一「……え?」


後藤「強いっていっても公立高校レベルだ。お前とは文字通り次元が違う」


光一「いや、でも」


後藤「光一、お前が思っている以上に環境は人に影響するもんだ。強い奴とやれば上手くなる。もちろん、その逆もある」


 光一、手首につけられたミサンガを見つめる。

 後藤、困惑する光一を見て苦笑して


後藤「まぁ一回きりの高校生活だ。部活を経てトッププレーヤーになった選手もいるしな。ゆっくり考えろよ」  


光一「……はい」


 光一、ミサンガがつけられた手首を握り締めている。


〇深山高校・外観(朝)

 桜並木がある校門前。門には入学式の看板があり、生徒が登校してきている。その 

 中には並んで歩いてきている光一と巧の姿。


〇同・校門前(朝)

 光一、校門を抜けたとこで


光一「巧……体育館見に行かないか」


巧「お、いいな。俺たちの戦場になるわけだし」

   

 苦笑する光一。


〇同(朝)

 登校してくる友香。

 体育館の方へ行く光一と巧を見つけ、迷いながらも追いかける。


〇同・体育館裏(朝)

 前を歩く光一と後ろに続く巧。


巧「体育館の大きさ、中学と変わらないな」


 光一、足を止める。


光一「あのさ、巧」


巧「ん?」


 後からきた友香。建物の陰に隠れるようにして光一と巧の話を聞いている。


光一「僕、部活に入るのやめようと思う」


 巧、表情を止めて


巧「は?」


光一「ナショナルチームに選ばれたんだ。部活に行ってる時間がない」


巧「ちょ、ちょっと待てよ。約束したろっ! インターハイで天下とるって」


光一「悪いと、思ってる。でも、でも僕は」


巧「言い出したのお前だぞっ。だから俺は毎日練習して」


 光一、辛そうな表情だが、迷いのない眼。

 巧、続きを話そうとするも光一の目を見て言うのをやめる。


巧「下手くそとは、もうやりたくねぇか」   

 

 光一、苦しそうに黙る。

 巧、そんな光一を見つめ、悔しさをこらえながら光一の横を抜けて去って行く。


光一「……」


 手首のミサンガを見つめる光一。

 一度そっと触れるも、力を込めて無理矢理引き千切ろうとする。

 友香、早足で近寄り、それを止める。


光一「友、香」


 見つめ合う、光一と友香。

 光一、眼を逸らして


光一「聞いてた、んだよね」


友香「……うん」


光一「最低だよ、僕は」


 光一、再びミサンガを引き千切ろうとするが、友香が止める。

 友香、迷いのない声色で


友香「連れてってあげて」

 

 友香、光一のミサンガ越しに手首を握りしめて


友香「オリンピック」


 光一、泣きそうになり俯く。

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青春のかたち(短編) KH @haruhira

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