第17話ヤガミタケシ
ヒエが私の身体にまた手を突っ込んで引っこ抜く、その手が光っている……まさかまさか!?
「掴まえたわよヤガミタケシ!!!」
「ちょっとヒエ!! 嘘でしょねぇ?嘘だよね!?」
状況が理解出来ない、師匠の魂はアタシの中で溶け込んだって云ってたのに……うっ嘘だ!? あたふたしていると、ヒエとヤエがニヤニヤしている。
「云って無かったっけ? ヤエは探知能力が優れているのよ。目と鼻の先で気が付かないわけ無いでしょう?」
「騙した!? ちょっと師匠を返して!!」
「騙してないわよ、ただ私には感知出来なかっただけ」
「まさか魂に自ら取り込まれようなんて、普通に見落とすわよ。さっきオデコを当てた時にね残滓を見つけたのよ」
「それでヒエと協力してヤガミタケシの魂を抜き取ったって訳よ」
じゃじゃあ今までのは……
「お疲れ様〜茉希の熱い思いは受け取ったわ、何か困ったらいつでも呼んで!」
「現在進行系で困ってんだよ!! それを返せ!! アタシんだ師匠はアタシだけの師匠何だ!!」
飛びかかるがあっさり躱される。悔しい!! 幽鬼共に犯されかけていた時よりも悔しい!!
「残念ね! ヤガミタケシとは、私達と神核迄繋がってるのよ。やっと掴まえたわよ、ヤエどうする?」
「そうね自我がちゃんと戻ったら説教ね、その後は……」
怒りで声が震えて来る
「いい加減んに……っ冷たい!」
キョーコが鬼の形相でお手水をぶっかけてきた。
「へぇ~っマキ? 冷静になれるようにもう一度行くわね!」
「キョーコちょっとまぅぶぅへっええ!!」
「私達はお邪魔の様ね。行きましょうヒエ」
「御二人とも今帰ったら刺します」
キョーコの三角剣が女神達の喉元に浮いている。ヤバい……一番ヤバい人怒らせた。神様の喉元迄、三角剣飛ばすとか容赦ないな!!
「これから私達の家へと、ご案内しますのでついて来て下さい」
「マキさっさと行くわよ!」
お尻に三角剣が刺さる。
「ひっ! はっはい帰ります!!」
そうだよ出会った頃のキョーコの顔だ。ちゃんと謝らなきゃ……
バイクに跨がり念話で謝ったが返事が無い……ごめんよキョーコ……バイクを走らせ家へ向かった。
アパートに着いた時にヤエが
「あら? ここってヤガミタケシの住んでたアパートよね」
「はい今は私とマキが暮らしています」
おい家主変わってるけど……寝室は狭いのでトレーニング部屋へ案内する。そう言えばお腹が空いたなぁ……ヒエとヤエがアタシのタンスを漁ってる。
「ちょっと!? なにしてんの!」
「あぁ……ちょっとまってね」
神が人の身へと変貌する。何故か全裸の姿で
「と言う訳で服借りるわね」
「ど〜ぞご自由に」
キョーコに近付いて甘えて見る
「ねぇキョーコ……お腹すいたなぁ」
「カップラーメンならあるじゃない」
「いやそうじゃなくてさ……キョーコの作ってくれるご飯が良いなぁ! アタシ大好き何だ!!」
「へ〜ぇ何が食べたいの?」
なんだコレ、クイズかテストか……色々作って貰ったけど。え〜っと、これ外したらアウトな気がする。どうする? 良し!
「キョーコが初めて作ってくれた煮物が良いなぁ、あの味付けが大好きでさ」
キョーコが俯く、ハズしたか?
「本当に?」
キターーーーーーーーーッ!!! 後ひと押しだ。キョーコの正面に立ちキョーコの顎をクイッと持ち上げる、直ぐに逸らすが戻す。目を見つめながら。
「キョーコの手料理が食べたい」
「もう……八神さんの事で……取り乱さない……?」
「さっきはごめんよ……でもキョーコへの気持ちは本当だから……分かるでしょ……」
「大事な人をこの手で守ると決めたって」
キョーコの顔があの晩以降の本来素顔に戻る。やっぱりこっちの顔が良い。
「しょっしょうがないわね、作るわよ! ヒエ様ヤエ様も一緒に食べますか?」
「頂くわ、久し振りの人間界のご飯だもの!」
「あっ食材が……買い出しに行って来ます!」
「じゃあ一緒に行こうか?」
「大丈夫よ、幽鬼共は出そうにないし。それにヒエ様とヤエ様に、部屋をあらされたくないでしょう?」
「宜しければ御一緒に出かけませんか?」
「へ〜楽しそうね私行く! ヤエは?」
「私は茉希の手伝いをするわ」
「そう? じゃあ行こう京子!」
「行ってくるわねマキ」
そう言って二人が出かけて行った、アタシとヤエが残った。さっき手伝うとか言ってたけどその前に……
「師匠ってかヤガミタケシは?」
「私が預かってるけど見る?」
掌に淡く光るモノを浮かび上がらせる。これがヤガミタケシって事は
「アタシとあんたらの繋がりは?」
「切れてはいない……でもいずれ消えて無くなるでしょうね。もう心を覗く事が出来ないもの」
「神気はどうなるの?」
「今その身体に宿している分で終わるわね、いずれ神気の器は減って行き。小さくなり消える。でもまだ器に余裕があるから。特別に分けてあげる」
ヤエが背中に手を当てる、ひんやりとした感覚が伝わって来る。
「行くわよ、これが最後の神気の補充だから限界まで飛ばすわよ!」
一気に神気が流れ込む、白山の水より冷たい。
「ひゃあああああああああああ!!!」
「結構入るわね……えいっ!」
「ぐへっ!」
床でうつ伏せになり突っ伏していると
「それとまだあるでしょやる事が」
「やること……?」
「その槍の事よ、大体の事情はオデコで伝わってるから」
槍を取り出すと二人が帰ってきた、一気に騒がしくなった。キョーコがすぐに作るという事なので、ヒエも加わり三人で槍の穂の先端を取り外す。ここにもう一振りの真三角剣を取り付けるらしいけど……アタシはまだ真三角剣を手にした事が無かった。
「あのさ真三角剣ってさ持ち主を選ぶんだよね?」
「そうね、でも茉希なら大丈夫よ。弟子何でしょ?」
その言葉に頷き真三角剣を手にする。あぁこれは師匠ヤガミタケシの霊気だ、雪山で神木を切り倒している姿が見えた。可笑しくって笑ってしまう、こんなにも情けない姿で作っていたんだね。手がボロボロになって……アタシの槍もハードだったけど作る時間に余裕があった。不思議な気分だ……この剣を作った理由が、呪いからアタシを助ける為に作られたものだという事。皮肉な事にアタシを二度も救ってくれた事になる。ヤガミタケシこれで最後にしましょう。アタシに力を!!
真三角剣と霊気が同調した事を女神達に報告すると、優しく促される。
「さぁ! はめ込んで見せて」
ゆっくりと取り付ける真三角剣と三角槍が同調していく、ヒエとヤエは何かを送り込んでいるようだ。カチッとハマる音がする。出来上がった三角槍は蒼い光を纏っている。
「これは神気?」
「そうよ、私達からの贈り物よ。名付けて神三角槍って所かしら、それなら切り札もきっと……」
「そっかありがとう! でヤガミタケシをどうするつもり?」
「別にどうもしないわよ、取り敢えず説教ね。あれだけ死なないって言ってたくせに……」
「それからの事はその時に決めるわ、ヤガミタケシは輪廻から外れてしまった。私達の神核をその身に宿し、自らの罰も受けているからね」
「罰?」
「茉希は知らないでしょうが、ヤガミタケシは罪を犯したのよ分かるでしょ?」
「それって家のジジイの事を!?」
「そうよヒエの代わりに罪を背負った」
なんてこった、アタシのジジイがした悪事は後で色々聞いていた。自業自得だとさえ思えた正直、死んだとき悲しくも無かった。でもヤガミタケシは……初耳だったジジイを呪うからその罪を自ら背負う。馬鹿な話だ……それなのにアタシのした事でさらに……自分の命まで……それなのに今迄ずっと
ヤエの手が淡く光る、その手をアタシに重ねてきてくれた。声が一瞬聞こえてきた
『気にするな! 生きろ!』
また涙が溢れた。もう今日だけで何度目だろう? うん生きるよ生きて皆を守る、キョーコが優しい声で
「こんなに泣き虫だなんてね……さぁ顔を洗って四人でご飯を食べましょう」
「うん……顔を洗ってくる」
本当にありがとう師匠……冷たい水で顔を洗い鏡を見る、酷い顔だ。アタシを三人が呼ぶ
「早く来なさいよ!」
「冷めちゃうじゃない!」
「せっかく美味しく出来たのよ食べて!」
「今いくよ!!」
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