第2話

○峯森警察署前(朝)

 晴天の空。三階建ての建物。入り口に立っている制服警官が欠伸をしている。


○同・廊下(朝)

 開いたままの扉の前。壁には刑事課のプレート。

 久保山友康(55)の嬉しそうな声。


久保山の声「よくやった!」


○同・刑事課(朝)

 課長席の前に並んで立つ、丸山、巴、逢坂達也(35)の三名。机を挟んで座る久 

 保山、満面の笑みで


久保山「すでに八件の窃盗を繰り返していた被疑者の確保。丸山。よくやったぞ」


 丸山、緊張気味に


丸山「あ、ありがとうございます」


巴「まぁ、追い込んだのは私ですけどね」


逢坂「いやお前は、俺が掴んだネグラの情報を聞いて飛び出してっただけだろ。逃がしてたら一大事だったぞ」


巴「先輩は慎重過ぎるんです。そんなんだからモテないんですよ」


逢坂「うるさいな。関係ないだろ」


巴「課長。ちゃんと私も働いてますからね」


 久保山、良い上司をアピールするようにしきりに頷いて


久保山「ああ、もちろんわかってるぞ。全部黒野のおかげだ」

   

 丸山と逢坂、久保山の対応を見て呆れた様子。

 丸山、巴、逢坂、それぞれ、自分の席に戻り座る。

 丸山の席には小さいぬいぐるみや特撮のフィギュアが飾られている。隣りの席の巴

 がフィギュアの一体を何も言わずに指で弾いて倒す。

 丸山、ムッとしながら倒されたフィギュアを直すと、腕時計を外して大事そうに机

 の隅に置く。

 逢坂、丸山の向かいの席から


逢坂「でもよかったな。丸山。刑事になってから初めての確保だろ」


 丸山、照れながら


丸山「そうなんですよぉ。いやぁ刑事に上がれただけでも嬉しいのに。ふへへ」


巴「苦節百年だっけ」


丸山「四年だよ!」


巴「先輩、私は? 何人逮捕したっけ」


逢坂「黒野は……指じゃ数えられないな」


 巴、丸山に向かってほくそ笑む。

 丸山、再びムッとして


丸山「黒野。何度もいうけどな、僕はお前よりも二年早く刑事やってるんだ。先輩なんだからなっ!」


巴「あー、そうだったね。どう頑張っても忘れちゃうの困った困った」


丸山「このキャリア組め。早く出世しろよ」


巴「私は現場主義なの。出世は興味ない」


逢坂「まぁ課長はいまだにへこへこしてるけどなぁ……でも、良い土産話が出来たじゃないか、今度実家に帰省するんだろ」


丸山「はい。すいません、少し休みもらいますけど」


逢坂「普段、ろくに休みないんだ。ゆっくりするといい」


 巴、あまり興味無さそうに


巴「へー、丸ちゃん実家どこなの」


丸山「丸ちゃんいうなよ……和歌山の久島って島。和歌山の港から船で四十分くらい」


巴「うへぇ、田舎っていうよりもう辺境だね。なんで警察官なんかに」


逢坂「確か、駐在所の警察官に憧れたんだったよな」


丸山「憧れたは大袈裟ですけど、都会と違ってもう近所のおじさんみたいな感じだし。僕、父親がいなかったから、なんかかっこよく見えたんです。島の皆から頼りにされて、こんな警官になりたいって」


 丸山、机に置いた時計を手に取って


丸山「杉田さんっていうんですけど。僕が警察官になるって島を出るときにこれくれたんです。頑張れって」


巴「あー、それで。もやしみたいなあんたにしてはゴツい腕時計だと思ってた。ということはさ、丸ちゃんはいずれ故郷の駐在所の警察官になりたいってこと?」


 丸山、はっとして時計を見つめる。


丸山「……そうだね。そのつもりで上京してきた。元々さ、刑事にだってなれると思ってなかったんだ。体力ないし、警察学校でも足引っ張ってばっかりで」

  

 丸山、黙り込む。

 巴、逢坂を見る。苦笑する逢坂。

 巴、場の雰囲気を変えるような少し大きな声で


巴「そういえば、交通課の女の子たちに評判だってよ。洋服もぬいぐるみもなんでも直せようになる丸ちゃん先生の裁縫教室」


丸山「あれは頼まれたからだけだよ」


巴「丸ちゃんは、男より女友達の方が多そうだよねぇ」


 丸山、図星というように呻く。


巴「でもまぁ」

  

 巴、丸山の机から小さい犬のぬいぐるみを取って、丸山に向ける。


巴「今日の仕事ぶりは、ザ・男刑事だったと思いますよ、丸山先輩」


 丸山、巴と眼を合わせず照れながらぬいぐるみを取り上げる。


丸山「……丸ちゃんでいいし」


 逢坂、そのやりとりを見て笑う。



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