第2話 二度目の出会い

「リップさ~ん!!配信したいから体貸してぇ!!」

眠りを妨げる甲高い声。彼女か・・・。


「んん・・・?ああ。」

「また、編集しながら寝てたの?寝ながら作ってもどうせ、つまらねぇ動画なんだから明日でいいんじゃない?」

「だめだよ。毎日投稿するって決めたんだから。つーか・・・。つまらない動画は余計な一言だよ。」


そう言って僕は編集作業を続ける。画面をスクロールしていくが、どうしても眠い。


「だから、寝ろって!その間に私が配信するから。」

「もう少しだけっ・・・。あああ!!」

次の瞬間体中に電流が走る感覚に襲われる。そう、リンダちゃんに体を乗っ取られてしまったのだ。


「じゃあ、ちょっと借りますね。よいしょっと!マイクON!カメラON!私のアバターは・・・っと。ちゃんと起動してるね。よし!!」

リンダは独り言のように機材の確認をしている。


「OK♪じゃあ、始めるか。」

確認が終わったのか、配信画面を付け配信開始ボタンを押す。



「はい。皆さんこんばんわ☆木下リンダです!今日もDBDの配信をやっていきまぁ~す!」



そう。何を隠そう彼女は幽霊のVtuberなのだ!

何を言っているのか分からないと思うが・・・。これは事実なのだからしょうがない。

幽霊だから実体がないじゃないかって?確かに実体はない。しかし、僕の体に乗り移れば話は変わってくる。


僕の名前はリップ・ヴァーンどこにでも居るYoutuberだ。と言っても、登録者は100人ちょっとしか居ない。

色々あって仕事を辞め、「好きなことで生きてやる」とゲーム実況を始めたのだが・・・。

現実は、とにかく厳しかった・・・。彼女と出会うまでは。




確か、彼女と二度目の出会いも雨が降っていた。


4月の雨・・・。


僕は橋の上から遠くを眺めながら考え事をしていた。

ここから飛び降りても上手く死ねるのだろうか?

もし、死にそこねたらどうする?

「桜は全部散ってしまったな。最後に見たかったな。」

僕はボツりと呟きながら、橋の欄干に足をかけた。



「お兄さん。何やってんの?」

その言葉で僕は我に返り欄干から降りた。

目の前には白のワンピースを着た女性が立って居る。



「今、死のうとしてたでしょ?自殺したら煉獄に囚われて罪が無くなるまで、自殺し続ける事になるわよ。」

「いや、僕キリスト教じゃないんで・・・。」

「キリスト教じゃなくても囚われるわよ。もしくは変な輪廻に流されちゃうかもね。あなたも良く知ってるんじゃない?」


こんな状況で宗教の勧誘だなんて信じられないと思ったが・・・。

「よく知って・・・あれ?君はあの時の・・・。」

「あら。覚えててくれたのね。嬉しいわ。」

「どうして此処が分かった?」

「実は、あの後からずっとあなたの事を見ていたの。」

そう言って、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「ええ?何てこった。ずっと見てたの?」

背筋に悪寒が走った。

「ええ。ずっとね。あなたの前の職場でも、結婚式も憎らしい程綺麗だったね。それにあなたが神主を辞めた理由も知っているわよ。残念だったね、霊能力者でもやっていける力があったのに。あっ!お子さん元気だね!!たまに遊んであげてるわよ。」


「やめてくれ!!ストーキングしやがって。何が目的だ!」

僕は何故か恐怖よりも怒りが込み上げてきた。

「はぁ?やめてくれだって??・・・てめぇ!私との約束忘れたのか?あぁ?今此処で死にてえのか?」

彼女は僕との距離を一瞬で詰めると鬼の形相で僕の首を掴んだ。


「待って。待って!あはは。やだな。お・・・覚えているに決まってるじゃ無いか。」

「本当か?」

「本当だよ。そんな事忘れる訳ないじゃないか。」


実はあまり覚えて無かったのは事実である。


「そっかぁ。なんだぁ⭐︎私勘違いしちゃった。テヘヘ♪」

僕は感情の切り替わりの早さに恐怖を覚える。

「それで・・・僕に何をして欲しいの?」

「えっとね。私と契約してくれるかな?」


「・・・はっ?契約??」

「そうそう。何事にも契約は付き物でしょ?それに、上の人達が最近うるさくてさ・・・。」

僕は戸惑った。というか、彼女が何を言っているかよく分からない。


「契約とはどのような内容なの?」

「そうね。簡単に言うとパートナー契約かな?例えばあなたの家に住まわしてもらったり、たまにあなたの体を借りたり・・・。」

「ちょっと!意味が分からないんですけど。体を借りるって・・・。」

「文字通り私があなたに乗り移るってことだけど?」

「そんなの無茶苦茶じゃないか。何で僕の体を貸さなきゃいけないんだよ!」


次の瞬間彼女に顔が引きつった。

「ああ?てめえが何でもするって言ったんだろうが!忘れたなんて言わせねえぞ!!」

「はい。そうです。僕が言いました。」

ヤクザ顔負けの恫喝に思わずビビってしまった。

「もちろんメリットもあるわよ。もし、悪い霊が来ても私が守ってあげるからね。」

「悪い霊ってあんたが一番悪い霊なんだよなぁ。」

「おい!なにか言ったか?」

「いや。別に・・・。」


そんな会話をしつつ、彼女は古びた紙を取り出し僕の方に差し出した。

「てことで、この契約書にサインして。」

「はい。ここですね。」

「ところで、まだ名前聞いてなかったよね?私は木下リンダよ。」

「僕は、リップ・ヴァーン。」


「そう・・・。じゃあ、リップさんこれからヨロシクね。」

「ああ。宜しく。リンダちゃん。」



こうして僕とリンダちゃんは出会った。



今、思えば・・・。







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