リンダと僕 幽霊だってVtuberになりたいんだもん☆

リップ・ヴァーン

第1話 最初の出会い

雨は嫌いだ。

今日はあのときと同じように雨が降っている。

こんな日に限って厄介事が舞い込んでくる予感がする。まったく面倒くさい。




ガチャ。部屋のドアが開く音がした。

私はもう少し静かに眠らせてくれないかと思って、うんざりしていた。


二人の男が入ってくる。

「現場はここですかね?」

そう言って和服姿の若い男があたりを見渡す。

もう一人の男はひどく怯えた様子で

「はい・・・。ここです。」「私も含め何人もの従業員が・・・。」

「そうですか・・・。では荷物はここに置いてください。準備が出来たら声をかけますので。」

「分かりました。では、お願いします。」

そう言って一人の男は早々に立ち去った。


「さてと・・・。どこから手を付けていいもんかな?」

薄暗く埃っぽい部屋、ここは倉庫代わりに使われているのだろうか。

部屋の奥に大きな鏡があるのがうっすらわかる。


和服の男はゆっくりと鏡の前へと進む。

「さてと・・・。そこに居るんだろ?もう出てきてもいいよ。」


その瞬間私と目があった・・・。

ああ。コイツもか・・・。コイツも私を殺しに来たのか。


「何もしないから安心して。大丈夫だから。」


一瞬身構える。しかし、武器になる法具も持っていない。ましてや浄化の祝詞も法術も唱える気がないのか・・・。

仕方ない。少し付き合ってみよう。


「お前は誰だ。」

そう言って私は鏡の後ろから男の前に姿を表した。

「やあ。やっと出てきてくれたね。出てきてくれないかと心配したよ。」


男は私の方へゆっくりと歩み寄る。

「そこから動くな!そう言ってお前らは・・油断させて私達を殺すんだろ?」

「そんなことしないよ。僕は君を救いたいんだ。」

「嘘が上手いな。私を殺ろうってんなら、こっちも容赦しねえぞ!」

私はナイフを構え男を威嚇した。


「待って待って待って!僕は君と対話しに来たんだ。戦うために来たわけじゃないよ。ほらこの通り僕は丸腰だよ。」

男は横に手を広げ何も持っていないことをアピールする。

私はいつでも男を仕留められる距離まで距離を詰め、男の首元にナイフを突きつけた。

「対話だぁ・・・。何寝ぼけたこと言ってんだ!こっちは殺るか殺られるかなんだよ!この首掻っ切られたくなけりゃ早くここから出ていきやがれ!!」

男は喉元にナイフを突きつけられているのにな全く動じなかった。

「そのナイフを下ろしてくれよ。これじゃ対話にならない。何もしないから・・・。僕を信じて。」

「信じてだぁ・・・。その言葉は何千何万回聞いた。もちろん裏切りとバリューセットでな!」

「おいおい。僕をそのへんの三流と一緒にするなよ。僕は騙し討はしない主義なんでね。」

男の目はまっすぐ私を見つめていた。力強く信頼出来る眼差し。

しばらくの沈黙の後、ゆっくりとナイフを下ろす。

「まったく。お前は太え野郎だな。気に入った。」

「ありがとう。」



「それで、君はこのあたりの者じゃないよね?どうしてこの土地へ?」

「それは、色々理由があるんだよ。」

「そうか。いやね。ちょっと言いにくいんだけど・・・。」

男はうつむき言いづらそうにしていた。


「なんだよ!はっきり言え。」

私は男の髪を掴まえ顔をあげさせた。

「いててて。実は、君のことでね色々騒ぎ立ててるやつが居てね。面倒くさいんだよ。」

「土御門のやつらか?」

「そうそう。知ってたの?」


土御門家は平安時代から続く陰陽師の一族だ。最近は、子孫が絶えたのか絶えなかったのか良くわからないが、とにかくヤバい奴らには変わらない。


男は少しびっくりした様子であった。

「前にゴタゴタがあったからな。その時から目を付けられているんだ。」


私は昔のことを少し思い出した。

「僕としては、共存共栄がモットーだからね。奴らが動く前にこうやって交渉に来たんだよね。」

「共存共栄か・・・。昔もそんなこと言っていたやついたな・・・。で・・・。条件は?」

「まぁ。共存派はこの世界じゃ少数派だからね・・・。それで、この場から立ち去り然るべき所に帰って欲しいんだけど。」


「じゃあ、こっちからも条件がある。その条件さえ飲めばここから立ち去ってやるよ。」


条件を持ち出されることは分かっていたが、男の顔がこわばる

「・・・・・。分かった。条件は?」


「お前の魂をよこせ!!」


「!!!!!!ええええ!”!!!」


悲鳴を上げて私の前から後退りした。やっぱり人を脅かすのはいい気分だ。次は少し甘い声を出してみよう。

「だってぇ。とっても綺麗な魂なんだもん。こんな魂めったに見ないよ。」


「あの・・・。僕が死んだ時でもいいですか??」

「えぇ。ダメだよ。今か旬なんだから。ついでに脊髄もちょうだい。」

「それ以外でしたら何でもあげますので・・・。勘弁してもらえないでしょうか?」

その言葉が聞きたかった。と私は心の中でつぶやいた。


「仕方ないなぁ。私、あんたのことが気に入ったからそれでいいや。」

「よかった。では、何をお望みでしょうか?」

「う~ん。今はいいかな。楽しみは最後のほうがいいでしょ?」

「そうか。う~ん。」

男はなにか考えている様子で、こちらの出方を伺っている。


「じゃあ、そういうわけだから・・・。あたし帰るね。」

「え?」

男は呆気にとられている。


「これで、縁は繋がった。また会いましょう。」

そう言って私は姿を消した。







これが私達の最初の出会いだった。

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