第1話 大抵は地が固まる前に雨が降る。
第1域 新年度、変わるもの、変わらぬもの。
第1節
2023年4月1日、朝7時。
俺が女になって1年が経ち、高校2年生となった。学校自体は中高一貫校なので、後輩の出来る喜びとかは大して無いが、決して0ではない。
そして俺にとっては、とても重要なイベントがあるのだ。それは・・・。
陽三「りゅーにぃ、おはようございます!!!」ドタドタ
大柄な青年が後ろから声をかけてきた。大親友である宙谷陽三くんだ。コイツはこの春から俺と同じ辻錦学園に入学した。
隆静「こらっ、お前!そっちの呼び方はやめろっつってんだろっ!」
陽三「僕からしたら女性になってもりゅーにぃはりゅーにぃですよ?」キョトン
だからその無垢な笑顔やめろ。𠮟りづらくなる。
隆静「外では女になってからの名前で呼んでくれよ。一応隠して過ごしてるから。例えば、ほら、【静姫先輩】とか?」
陽三「・・・。」
隆静「何故急に黙る!?」
陽三「なるほど!りゅーにぃはそう呼んでほしいんですね。」メモメモ
隆静「メモるな!!!」
つくづく思うが、コイツ絶対将来詐欺に引っかかるだろ。兄貴分として俺は心配だ。
隆静「とにかくっ!学校内での俺は静姫だからなっ!見た目は可愛い系で性格はややカッコつけな超絶美人な女子!!!じょ、し、で、す、か、らっ!」
陽三「自分で可愛いって言っちゃうんですね・・・。」
隆静「勿論、ただの自惚れじゃねーぞ。まぁそこは?試しに2年の教室に来たら分かるから。」キリッ
陽三(あっ、これ2年の教室に行かなくても分かるヤツだ・・・。)
陽三くん。心配されるからこれ以上は言わないが、可愛いだの美人だのを自称する事で女になって良かったと自ら強引に言い聞かせる意味合いもある。ていうかそれが主因だ。
京阪電車と御堂筋線を乗り継いで、なかもず駅から少し歩くと、辻錦学園に到着する。85分にも及ぶ通学は、1年経っても全く慣れない。
アイツは1年の、俺は2年の教室に行き、始業式に備える。始業式といっても、別に校長の話がそこまで長い訳ではないので居眠り対策は不要だ。ただ大変なのは、ずっと体育座りであるという事だ。この座り方は、スカートを履く女子学生にとって天敵そのもの。女にならないと絶対に分からない、野郎共の盲点である。
対策は幾つかある。
1つ目は座った時に裾を軽く持ち上げる王道のやり方。でもこれ、地味に手がキツい。
2つ目は下に体操服の半ズボンを履く。いろんな意味で色々と吹っ切れた方法だ。ただ俺はあまり好きではない。
そして3つ目。俺が実行している方法、胡座をかいて膝を半分上げるやり方だ。これ、超ラク。初めて実施した時は達成感がエグかった。
教師「・・・それでは、2023年度前期の始業式を終わります。」
しかし万物において、一長一短はある。この座り方の短所は・・・、
教師「全員、起立!」
慌てて立ち上がろうとすると・・・、
静姫「よいしょ、っと・・・うわっ!?」
バランスを崩しやすく・・・、
クラスの男子「宇橋!?」
クラスの女子「静姫ちゃん!?」
静姫「ヒャブッ!」ドシーン
・・・このように、派手にコケる事がある。
クラスの女子「ちょっと静姫、大丈夫!?」
静姫「だ、大丈夫・・・。平気・・・。」
俺の心配をしてくれる優しい人々の中で一人、俺の隣に座ってた舶陶次郎は、眼鏡を外してそっと紙切れを渡してきた。そこにはこう書いてあった。
【mrsk】
静姫「・・・・・・・・・ッ!!!」カアァ
慌ててスカートの中を隠した。なんでこうも回りくどい事をしてくるんだコイツは。頭が良いからって劣等生な俺を誂ってるのか?てかそもそもデリカシーという単語を御存知ないのか?
クラスの女子「ん?どしたの?」
静姫「いやいやいや!!!特に何も無いよ特に!!!」
クラスの女子「・・・特に?」
目立つのは避けたい俺は、先程の紙切れの裏に殴り書きをして、教室に戻る舶のズボンの後ろポケットに捩じ込んだ。
【ちがくきょうしつにこい】
陶次郎「・・・・・・宇橋ちゃん、相変わらず字が汚いなぁ。でもまぁ?勘の良いおれなら、余裕で読めますけど。」
〜メルティッド・チョコレート〜
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