第2節
辻錦学園の高等部校舎は7階建てである。敷地面積があまり大きくない分、縦に長い。
俺が舶との待ち合わせ場所に選んだのは4階にある地学教室だ。俺達のいる2年1組は理系クラスなので、普段は縁が無い。
だからこの場所で話す必要があるのだ。俺の秘密を知る、アイツとは。
隆静「・・・。」ムスッ
陶次郎「・・・しっかし始業式の日って、授業も部活も無いし、暇だよなぁ。」
隆静「・・・俺バスケ部だけど、この後普通に練習あるぞ?剣道部が練習ないだけだろ。」
陶次郎「マジかよ、スゲェな。剣道部は顧問が始業式の日は練習NGにしてるからさ。」
隆静「なんじゃそら。」
陶次郎「こういう日ぐらい休めって意味らしい。」
隆静「なるほどなぁ〜・・・・・・じゃなくて!!!なんで普通に雑談出来んだよこの状況で!!!」
コイツの話は面白い。だからつい本題を忘れるところだった。
陶次郎「えー、良いじゃんか。それとも宇橋ちゃんは、あの大衆の面前で『パンツ見えてますよー。』って言われる方が良かったんか?」
隆静「いや選択肢!!!どっちもノンデリじゃねーか!!!」
陶次郎「ははっ、相変わらず良いツッコミだねー。ちょっとは気が晴れたんじゃねーか?思いっきり叫んで。」
隆静「・・・・・・は?寧ろストレス倍増なんですが。」キョトン
舶は時々こういう意味の分からん気遣いをしてくる。
陶次郎「おっと、目論見が外れたか。それは悪い事をしたね。普段から本性曝け出せないぶん、事情を知ってるおれがサンドバッグ代わりになり続けてきたけど、もうやめた方が良いか?」
隆静「い、いや、それは・・・。」ギクッ
コイツと話しているとストレスが溜まりまくる、っていうのは紛れもない事実である。でも、【普通の女の子】を装わずに本当の自分のままで愚痴を言える存在が同学年にいるのはありがたい。実際、舶と話し終わった後は心が少し軽くなる。
隆静「・・・・・・でもっ!流石に今日みたいなのはナシ!!!バリクソ恥ずかしいからな!スカートの中身見られるの!」アセアセ
健全な10代ノンケ男子たるもの、同世代の女子のスカートの中は気になるものだ。だがスカートを履く側になって初めて気付いたが、女子はこんな防御力激低なものをよく履けるなと感心する。
陶次郎「そうだな。セクハラにならない様に気を付けてきたが、今回はやり過ぎだった。すまない。」
深々と頭を下げる舶。去年から同じクラスなので色々とみてきたが、言動や所作の随所に育ちの良さが垣間見える。ムカつくけど。
隆静「・・・まぁ、舶も俺のラッキーカラーである紫色のパンツを見れたんだし?今回はそれで許してやるかっ!」
そういうのを見ると、悔しいけど俺もコイツとの関係性は続けたいと思ってしまう。非常に悔しいけど。
隆静「ところで舶ってさ、女子のスカート捲りってした事ある?」
陶次郎「いや。確実に女子に嫌われるから、おれはそういう行為はしない。宇橋ちゃんはどうなんだ?男時代とかさ。」
隆静「小坊時代の俺は舶みたいに賢くなかったから、そりゃあ痛い目見ましたよ・・・。」ドヨーン
陶次郎「・・・・・・これ以上は模索しないでおいてあげる。」スンッ
返す言葉が無かった。俺にも荒れてた時期はあったが、それを言い訳にはしたくない。
智紗「あっ、静姫先輩ー!そろそろバスケ部で集まる時間ですよー!」
遠くから智紗ちゃんの声が聞こえた。
隆静「あー、すぐ行く!」
陶次郎「・・・部活の後輩か?」
隆静「うん。船井智紗ちゃん。中等部上がりの高1。そういえば詳しく説明した事なかったっけ?」
軽く頷く舶。一方の俺は、智紗ちゃんの声を聞いて、ある事を思い出した。
隆静「・・・話変わるけどさ、俺思うんだよね。舶って俺よりなんでも出来るのに、勘の鋭さしか誇らないの、めちゃくちゃ損してるくない?って。俺個人の目線からすりゃ、性転換症に気付くのに2ヶ月かかった舶よりも、出会ったその日のうちに気付いた智紗ちゃんの方が勘が鋭いと思うぜ、俺的には。」
陶次郎「!?」ビクッ
明らかに眉が動いた舶。その眉間に、俺は人差し指を当てた。
隆静「前から言いたかったけど、この際だしはっきり言っとく。お前は俺に無いものをたくさん持ってるから、謙虚になり過ぎんなよ。んじゃまた明日♪」
そう言い残して俺は部活へと向かった。
陶次郎「宇橋ちゃんも言うじゃねーか。おれの勘の鋭さを舐めちゃあ困るぜ。何せ・・・。」
新学年が始まった4月1日の昼下がり、薄曇りの空。
陶次郎「それにしても、高等部1年、船井智紗・・・。ちょっと興味が湧いてきたな。」
俺が発した何気無い言葉が、巡り巡って俺の身に思わぬ形で返ってくる事になるなど、当時は知る由もなかった。
〜メルティッド・チョコレート〜
次の更新予定
2024年12月27日 22:00 隔週 金曜日 22:00
メルティッド・チョコレート キュリオ @curio-joker
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