第3話

○倉見刑務所・診察室・中

 診察ベッドで横たわり苦しんでいる斉藤公造(62)。両手には手錠が掛けられて

 いる。

 斉藤を介抱している新山朱美(24)。部屋の隅で状況を見守っている刑務官B。出

 入り口付近で狼狽えている吾妻憲斗(25)。


朱美「吾妻先生っ! 指示を」


吾妻「えっと、えっと……」


 吾妻、震える手でメモ帳をめくっている。そこへやってくる臼井と徳村。

 臼井、吾妻の肩に手を置いて


臼井「目の前の患者をみたほうが情報は得られますよ」


吾妻「……え、あ」


 臼井、吾妻をみて微笑む。


徳村「新山、お前がいて何も出来ないのか」


朱美「看護師には限界があります」


 臼井、斉藤を仰向けに寝させて


臼井「どこか痛いですか?」

 

 斉藤、腹を押さえて苦しみながら


斉藤「腹が、腹が痛ぇ!」


臼井「お腹触りますね、ここ痛いですか?」


 臼井、腹を触ると斉藤が悲鳴を上げる。


臼井「こっちはどうですか?」

 

 臼井、別の腹の場所を触ると斉藤がまた悲鳴をあげる。口から泡を吹き始める。朱

 美、それを見て焦り


朱美「あの、どうしますか」


 臼井、ペンライトを取り出して


臼井「ちょっと眩しいですよ」


 臼井、斉藤の両眼にライトを照らして看ると、ゆっくりと椅子に座る。


臼井「新山さん。彼のカルテは」


朱美「え? あ、はい」


 朱美、戸惑いながらカルテを渡す。

 カルテを見る臼井。斉藤は苦しみ続けている。


徳村「おい、頼広。どうするんだ」

  

 臼井、カルテを見ながら


臼井「それ以上続けても、時間の無駄ですよ」


徳村「なに?」


 そこで斉藤が苦しむのピタッとやめる。


斉藤「よくわかったな、ドクター」


 斉藤、何事もなかったように起き上がる。唖然とする徳村、新山、吾妻、刑務官

 B。

 徳村、斉藤の胸ぐらを掴んで


徳村「……貴様、仮病とはいい度胸だな」


 斉藤、口元を拭きながら


斉藤「騙されるほうが悪いんですよ、研修医の兄ちゃんが可愛かったからついね」


 吾妻、悔しそうに唇を噛む。


臼井「でも痛かったのは本当でしょう。実際には腰あたりじゃないですか。まぁ我慢出来ないほどではないと思いますが」

 

 斉藤、はっとする。


臼井「急に痛くなってついでに悪戯をしたってところですか」


 臼井の見るカルテ、膵臓癌ステージⅣとあり、余命半年と書かれている。


斉藤「へへっ、これはまた優秀な人を連れてきたもんだ、お役人さんよ」

   

 徳村、舌打ちをして斉藤から手を離す。


臼井「痛かったら素直に言ってください。言わなきゃ伝わらないこともありますよ」


斉藤「今さら何をやってもね」


臼井「私は医者であなたは患者です。服役囚の前にね。やることは山ほどありますよ」


 臼井、斉藤を真っ直ぐ見つめて


臼井「診察を、始めましょうか」


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サイレント・ガーデン(短編) KH @haruhira

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