第17話 チカイ

読み終えて、目のやり場に困っていると泣き声に近いすすり声が聞こえた。

「もうあの娘は・・・」

「えっと、あの、手紙ありがとうございます。」

瞬きすればこぼれる事は分かっていた。しかし、ここで泣いてはいけないと思った。

「あの、お線香をあげても良いですか?」

自分でも驚くくらい冷静だった。

いや、こうした状況が初めてだったため心と体がどう対処して良いのか分からずにいたというのが正直だった。

お母様に連れられ、畳の間に正座になった。

そこには初めて見るキラキラ光る笑顔が黒い縁に囲まれていた。

キラキラ光るというのは不謹慎かも知れない。でも、そう思った。

深く目を閉じて両手を顔の前で合わせる。

心の中でいくつもの思いを伝えるように話しかける。

数分後、目を開けて後ろに居るお母様に感謝を告げた。

この機会を無くしてくれなかった事、打ち明けてくれた事。

「あの、今日はほんとにありがとうございました。辛い思いを掘り返してすいません。」

「いえ、全然大丈夫ですよ。きっとあの娘も天国で喜んでますよ。」

いつの間にか涙は消え、写真に似た笑顔があった。

「それで、お願いがあるんですが・・・」

「ええ、何でしょうか?」

「また来年、いや5年後また来てもいいでしょうか?もっと立派になって来ます。ダメですか?」

「5年ですか?そんなに待たなくてもあなたならいつでもいらっしゃって構いませんよ。」

きっと、あの娘の優しさは母親譲りだろうと素直に思った。

「ありがとうございます。でも、また5年後来ます。」

そう言うと立ち上がり、窓から見える大きな木が目に入った。

「この木はあの娘が産まれる少し前に植えたのよ。でも、花は一度も咲かずにただ大きくなったのよ。そんなことがあるのかと少し笑ってしまう時もあったけど、今は咲かない事が当たり前だから。」

少し笑っていた。

「そうなんですか。じゃ僕よりも少し年上ですね。でも、きっと咲くと思いますよ。咲かない花なんて無いって教えられましたから。」

「あら、そんな素敵な言葉を聞けるなんて」

「あの娘に教わったんです。」

「あの娘がそんな事を?」

「はい。この言葉があったから今まで頑張って来られました。だから、今はずっと咲く時を待ってるんだと思います。」

自分の言葉ではないのに、自信満々な自分がいた。

「では、僕はこの辺で失礼します。今日は本当にありがとうございました。」

「いえ。私の方こそありがとうございます。気を付けて帰ってくださいね。」

開けてくれた玄関を今度は自分が開ける。

玄関のドアを片手で押さえ、一礼して静かに閉めた。

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