第16話 シンジツ

それからまた時計の針は進んでいた。

ここまでこの家にお邪魔しているのはなぜだろうと最初の目的さえ忘れる程時間が過ぎていた。

「あのやっぱり帰りが遅い気がします。なにかにあったのでは。」

後半は勢いまかせだった。

「大丈夫ですよ。」

笑いながら言ってくれた。

でも、自分にはなぜここまで帰りの遅い自分の娘にそこまで自信が持てるのか分からなかった。

少し踏み込んだ質問をしてみる。

「あのどうして、そこまで自信が持てるんですか?」

「私には分かるんですよ。親子ですから。」

そう言われると、何も言い返せない。

さらに、お母様は続けた。

「なんて、いくら親子でもトラブルの有無の自信なんて持てないですよ。」

鳩が豆鉄砲を食らうとはこういう時に使うのだろう。

声にならない声が喉の奥から漏れていた。

「あの娘は帰って来ませんよ。いくら待っても。」

「えっ!どういうことですか?」

この際、疑問に思った事は何でも聞こうと思った。

「実は・・・あの娘はもう帰って来ないんです。」

「じゃあ、この家に居るんですか?」

思わず椅子から立ち上がった。

「ええ。あなたが来る前からずっと家に居ました。嘘をついてごめんさない。」

「謝らなくても良いです。ただ今日はお会いするために来ました。それで、今どこに?」

「分かりました。もう隠し事はなしですね。」

そう言うと、二階へ上がりしばらくした後、手に何か持っていた。

 「あなたが来たら渡すように言われていたのです。」

手に持っていたのは、手紙だった。

それを僕に渡した。

「あの、二階にいるんですか?それなら」

「その手紙に全て書かれています。それからまた、お話しませんか?」

言いたい事は読み終えた後にしよう。そう決めた。

綺麗に光る星のシールを剥がし中から手紙を取り出す。

それを時間をかけて丁寧に読んで行く。

しばらくした後、手紙の内容を一通り頭にいれた。

しかし、それは未熟な男にはすんなりと受け入れ難い内容だった。


【この手紙をあなたが読んでいるということは私はもうこの世に居ないことになりますね。

最後にこの手紙に私の想い全てを書きます。】


手紙の内容はこんな感じだった。

同じ高校に進学予定だった事、同じ制服を着たかった事、高校の景色を見たかった事、私服を見たかった事、一緒に海を歩きたかった事、手を繋いで他愛のないお話をしたかった事、ケーキを一緒に食べたかった事。

実は、病気で手紙は全て病室で書いていた事、男の姿を病室から眺めていた事。

だから、ボトルに自分の気持ちを託した事、初めて返事が来た時の喜び、将来の夢、自分の宝物、もっと文通をしたかった事、直接会って笑いながらお話をしたかった事、僕との将来を思い描いた事、もっと僕の事を知りたかった事、一度外に出て海に行き僕を待った事、でも会えなかった事、お互いの温度を知りたかった事、二人の思い出を作りたかった事。


もっと生きたかった事。

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